施設巡回点検のやり方|管理物件の巡回で見る10箇所と記録の残し方
巡回点検は法定点検ではありません。法令で頻度も項目も決められていない、管理会社が自主的に行う点検です。だからこそ、やり方に差が出ます。
「見て回った」で終わるか、「オーナーに報告できる資料」になるかは、記録の作り方次第です。この記事では巡回で見る10箇所と、指摘を是正まで追う仕組みをまとめます。
巡回している建物そのものが点検の対象になることもあります。判定は用途と規模で決まるので、防火対象物点検とはで先に確かめてください。
巡回と同じ場所を見る作業に清掃があります。作業計画と実施記録を1枚にする方法は清掃チェックリストの作り方にまとめました。
この記事の内容(9項目)
巡回点検とは|法定点検との違いと巡回が担う役割
法定点検
法令で頻度・実施者・報告先が決まっている点検。たとえば消防用設備等の点検は1年以内で消防庁長官が定める期間ごとに行い、報告は建物の用途により1年または3年に1回(消防法施行規則31条の6)。設備が基準を満たしているかを確認する。巡回点検
月1〜数回、管理担当者が実施。日常の劣化・不具合・清掃状態を確認する。オーナーへの報告が目的。法定点検の間隔は、短いものでも数か月、長いものは数年です。その間に起きる球切れ、汚れ、破損、不法投棄、放置自転車は、巡回でしか拾えません。入居者からのクレームになる前に気づくのが巡回の価値です。どの法定点検がかかるかは建物の法定点検 種類一覧で整理しています。
(法令の定めなし)
決めるもの
決めるもの
巡回で見る10箇所
外から内へ、上から下へ、と順路を決めて回ります。
| # | 箇所 | 見るもの |
|---|---|---|
| 1 | 外周・敷地 | 不法投棄、放置自転車、雑草、外構の破損、掲示物の劣化 |
| 2 | エントランス | 自動ドアの動作、床の汚れ、郵便受けの破損、掲示板の更新 |
| 3 | 共用廊下・階段 | 照明の球切れ、手すりのぐらつき、私物の放置、床の損傷 |
| 4 | ゴミ置場 | 分別状況、においと衛生、扉の施錠、清掃状態 |
| 5 | 駐車場・駐輪場 | 区画線の消え、無断駐車、ライン内の障害物、照明 |
| 6 | 機械室・電気室 | 施錠、周囲の物品、異音・異臭、漏水の跡 |
| 7 | 屋上・バルコニー | 排水口の詰まり、防水層の膨れ、避難ハッチの障害物 |
| 8 | 消防設備まわり | 消火器の位置と圧力、消火栓前の物品、避難経路の確保 |
| 9 | 給排水 | 受水槽の外観と施錠、量水器まわり、漏水の跡、排水の詰まり |
| 10 | トイレ・給湯室(共用) | 清掃状態、消耗品、水漏れ、換気扇の作動 |
7番の屋上の排水口は、被害が大きくなりやすいのに見落とされがちです。落ち葉や土が詰まると、大雨のときに階下への漏水につながります。台風シーズン前は重点的に見てください。
写真の撮り方で報告の質が変わる
巡回報告は写真がすべてと言っても大げさではありません。文章だけの報告書はオーナーに伝わりません。
- 引きと寄りの2枚|引きで場所が分かるように、寄りで状態が分かるように。1枚だとどちらかが欠けます
- 是正後も同じ構図で撮る|ビフォー/アフターが並ぶと、やったことが一目で伝わります
- 日付を残す|撮影日時が入る設定にしておくと、いつの状態かが明確になります
- 問題がない箇所も定点で撮る|経年変化を追えます。「去年と比べて」の議論ができるようになります
写真+チェック
の3段階
要修繕は見積り依頼
写真つきで提出
指摘を是正まで追う
巡回で最も価値が出るのは、指摘した項目が直ったかを次回確認することです。ここが抜けると、毎回同じ指摘を書き続けることになります。
- 指摘に番号を振る|「2026-10-01-01」のように日付+連番
- 状態を3つに分ける|未着手/手配済み/完了
- 次回巡回の冒頭で前回の未完了を確認する|これをルーティンにする
- 3ヶ月動いていない案件はオーナーに再提起する|予算待ちなのか、判断待ちなのかを明確にする
是正の追跡は、法定点検の指摘(12条報告の要是正など)とも同じ構造です。巡回・法定点検・修繕の指摘をまとめて1枚で追えると、物件の状態が把握しやすくなります。
巡回頻度をどう決めるか
法令の定めがないため、管理委託契約で決めます。目安は次のとおりです。
| 物件タイプ | 巡回頻度の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 賃貸マンション(常駐なし) | 月1〜2回 | ゴミ置場・共用部の状態が入居率に直結 |
| テナントビル | 月2〜4回 | テナントからの申し出が多く、対応の起点になる |
| 戸建て・小規模 | 月1回 | 設備が少なく、確認箇所が限られる |
| 空室・空き家 | 月1回 | 通水・換気・郵便物の確認が主目的 |
頻度より継続性が重要です。月4回を3ヶ月で止めるより、月1回を3年続けるほうが物件の状態は良くなります。無理のない頻度を契約時に決めてください。
清掃業務も委託している場合は、清掃の記録(日常清掃チェックリスト・トイレ清掃点検表)と巡回記録を分けておくと、責任範囲が明確になります。
巡回点検にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
巡回点検そのものを定めた法令はなく、2023年以降も新しい義務はできていません。変わったのは、巡回の前提になる管理委託契約のひな形と、巡回で見る設備・巡回する人にかかわる決まりです。確かめられた事実だけを日付順に並べます。
| 日付 | できごと | 根拠 |
|---|---|---|
| 2023年9月11日 | 国土交通省が「マンション標準管理委託契約書」を改訂。書面の電子化、担い手確保・働き方改革、居住者の高齢化などへの対応が柱 | 国土交通省 報道発表 |
| 2024年4月1日 | 水道の整備・管理の所管が国土交通省へ、水質の所管が環境省へ移った。簡易専用水道の管理基準や検査は国土交通省令(水質の検査は環境省令)で定める形になっている | 水道法34条の2、同法施行規則55条・56条 |
| 2025年6月1日 | 熱中症を生ずるおそれのある作業について、報告の体制づくりと、悪化を防ぐ措置の手順を定めて周知することが事業者に義務づけられた。夏の屋上や外周の巡回にもかかわる | 労働安全衛生規則612条の2 |
| 2025年12月12日 | 国土交通省が「マンション標準管理委託契約書」を改正し、「マンション標準管理者事務委託契約書」などを策定 | 国土交通省 報道発表 |
| 2026年4月1日 | 改正マンション管理適正化法が施行(上の報道発表で施行予定日として示されたもの) | 国土交通省 報道発表 |
マンションの巡回は、管理委託契約に書かれた業務として行うのが一般的です。契約書を新しいひな形に合わせて見直すときに、巡回の頻度と報告の形もあわせて書き直すと、オーナーや管理組合との認識のずれが減ります。
出典:国土交通省「マンション標準管理委託契約書を改訂しました」(2023年9月11日)、国土交通省「マンション標準管理者事務委託契約書…を策定・改正しました」(2025年12月12日)、e-Gov法令検索(水道法)、e-Gov法令検索(労働安全衛生規則)、e-Gov法令検索(消防法施行規則)
確認日は2026年10月3日です。受水槽の検査は物件のある自治体の水道担当や保健所、消防用設備等は所轄の消防署、巡回する従業員の熱中症対策は所轄の労働基準監督署で確かめてください。
巡回点検に出てくる用語
巡回点検のチェックリストや報告書には、法令の言葉と業界の言葉が混ざります。法令上の定義があるかどうかを分けて並べました。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 巡回点検 | 管理会社や管理担当者が建物を見て回り、劣化・不具合・清掃状態を確かめること。法令上の定義はない | なし |
| 法定点検 | 法令で義務づけられた点検の総称として使われる言葉。法令上の定義はない | なし(個々の点検はそれぞれの法令) |
| 消防用設備等の点検 | 防火対象物の関係者が定期に点検させ、結果を消防長または消防署長に報告するもの | 消防法17条の3の3、同法施行規則31条の6 |
| 維持台帳 | 消防用設備等の点検結果などを編冊したもの。点検結果を記録する | 消防法施行規則31条の6第3項 |
| 簡易専用水道 | 水道事業の水だけを水源とする水道で、受水槽の有効容量の合計が10立方メートルを超えるもの | 水道法3条7項、同法施行令2条 |
| 定期調査・定期検査 | 一定の建築物や昇降機・防火設備などを資格者に調査・検査させ、特定行政庁に報告するもの | 建築基準法12条 |
| 是正 | 指摘した不具合を直すこと。法令上の定義はない | なし |
| 管理委託契約 | オーナーや管理組合が管理会社に管理業務を任せる契約。マンションでは国土交通省の標準管理委託契約書がひな形として使われる | 国土交通省「マンション標準管理委託契約書」 |
報告書では、巡回で見つけたことと、法定点検の指摘とを同じ言葉で書かないのがポイントです。「法定点検で指摘」と「巡回で気づいた」を分けておくと、オーナーがどれを急ぐべきか判断しやすくなります。
巡回点検と一緒に押さえておきたいこと
巡回点検はチェックリストで回すのが一般的です。そのうえで、法令の決まりがある設備に巡回で触れるときは、次の点を押さえておくと報告の質が上がります。
受水槽が10立方メートルを超えるなら、清掃と検査は別に年1回ある
受水槽の有効容量の合計が10立方メートルを超える簡易専用水道では、水槽の掃除を毎年1回以上行い(水道法施行規則55条1号)、地方公共団体の機関または登録を受けた者の検査を毎年1回以上受けることとされています(水道法34条の2第2項、同法施行規則56条)。巡回で見る「受水槽の外観と施錠」は日常の確認で、この清掃・検査の代わりにはなりません。巡回点検表に前回の清掃日と検査日を書く欄を設けておくと、期限切れに気づけます。詳しくは貯水槽の清掃と検査で扱っています。
消火器や消火栓の前の物品は、点検の間を巡回で埋める
消防用設備等の点検は、1年以内で消防庁長官が定める期間ごとに行い、結果を維持台帳に記録して、建物の用途に応じて1年または3年に1回報告することとされています(消防法施行規則31条の6)。点検と点検のあいだに置かれた段ボールや自転車は、巡回でしか拾えません。巡回で見つけた指摘を維持台帳と同じファイルに綴じておくと、次の点検業者にも伝わります。報告の流れは消防設備点検の報告にまとめています。
夏の屋上・外周の巡回は熱中症の手順に入れる
2025年6月1日から、熱中症を生ずるおそれのある作業では、自覚症状がある人や異変に気づいた人が報告する体制を整え、作業からの離脱や身体の冷却などの手順を定めて周知することが義務づけられています(労働安全衛生規則612条の2)。屋上の排水口や外周を1人で回る巡回は、異変に気づく人がいない形になりやすいので、連絡の方法と中止の目安を巡回の手順書に書いておくと安心です。
巡回点検の報告書に入れる項目
巡回点検の報告書に法令上の様式はありません。オーナーが読んで判断できる形にするなら、物件名・巡回日時・巡回者・天候、箇所ごとの結果、指摘番号と写真番号、前回指摘の状況、次回の予定の5つの塊にまとめると読みやすくなります。前回指摘の状況を冒頭に置くと、是正が進んでいるかが1枚目で伝わります。
よくある質問
- Q. 巡回点検に資格は必要ですか?
- 不要です。法定点検ではないため、管理担当者が実施できます。ただし機械室・電気室への立入りは、感電等の危険があるため無理に近づかず、外観確認にとどめてください。
- Q. 巡回記録の保存期間は?
- 法定の義務はありませんが、管理受託契約の期間中と、終了後1〜2年は保管することをおすすめします。トラブル時の説明資料になります。
- Q. オーナーへの報告はどのくらいの頻度で?
- 月次報告が一般的です。指摘がない月も「異常なし」を報告することで、管理していることが伝わります。緊急案件はその場で連絡します。
- Q. 巡回で法定点検の代わりになりますか?
- なりません。法定点検の多くは、資格者による点検・検査と、消防署や特定行政庁などへの報告が定められています。巡回はあくまで日常の状態確認で、両方が必要です。
- Q. 巡回点検のチェックリストに受水槽の清掃日を入れる必要はありますか?
- 法令上の義務ではありませんが、入れておくと便利です。受水槽の有効容量の合計が10立方メートルを超える簡易専用水道では、水槽の掃除と検査をそれぞれ毎年1回以上行うこととされている(水道法34条の2、同法施行規則55条・56条)ので、前回の日付が見えると期限切れに気づけます。
- Q. 夏の巡回で気をつけることはありますか?
- 2025年6月1日から、熱中症を生ずるおそれのある作業では、報告の体制と悪化を防ぐ手順を定めて周知することが事業者に義務づけられています(労働安全衛生規則612条の2)。屋上や外周を1人で回る巡回は、連絡の方法と中止の目安を手順書に書いておくと安心です。
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本記事は一般的な情報の整理であり、法令への適合を保証するものではありません。個別の義務内容は所管行政庁または専門家にご確認ください。記事の内容は2026-10-03時点の情報です。