機械の始業前点検表の作り方|法定項目がある9種の機械と現場に貼る様式
始業前点検表は、一般には機械のそばに貼って手書きで運用する形が多く使われています。エクセルで様式を作り、印刷して貼る形にすると、パソコンを開かなくても毎日の点検が回ります。
この記事では、作業開始前の点検が法令で決まっている機械の確認、項目の絞り込み方、保存期間、そして印刷して使うための様式設計をまとめます。
この記事の内容(8項目)
まず「始業前点検が法令で決まっている機械」を確認する
その日の作業を始める前の点検が、労働安全衛生規則とクレーン等安全規則で決められている機械があります。法令では「作業開始前の点検」と書かれています。自社にあるか確認してください。
| 機械 | 点検項目 | 根拠 |
|---|---|---|
| フォークリフト | 制動装置・操縦装置、荷役装置・油圧装置の機能、車輪の異常の有無、前照灯・後照灯・方向指示器・警報装置の機能 | 安衛則151条の25 |
| 不整地運搬車 | 制動装置・操縦装置、荷役装置・油圧装置の機能、履帯または車輪の異常の有無、前照灯・尾灯・方向指示器・警報装置の機能 | 安衛則151条の57 |
| 車両系建設機械(重機) | ブレーキ及びクラッチの機能 | 安衛則170条 |
| 高所作業車 | 制動装置、操作装置、作業装置の機能 | 安衛則194条の27 |
| コンベヤー | 原動機・プーリーの機能、逸走等防止装置・非常停止装置の機能、回転部の覆い・囲いの異常の有無 | 安衛則151条の82 |
| プレス機械・シャー | クラッチ・ブレーキの機能、ボルトのゆるみ、一行程一停止機構・急停止機構・非常停止装置の機能、危険防止機構の機能、金型・ボルスター(シャーは刃物・テーブル)の状態 | 安衛則136条 |
| クレーン | 巻過防止装置・ブレーキ・クラッチ・コントローラーの機能、ランウェイとトロリが横行するレールの状態、ワイヤロープが通っている箇所の状態 | クレーン則36条 |
| 移動式クレーン | 巻過防止装置・過負荷警報装置その他の警報装置、ブレーキ、クラッチ、コントローラーの機能 | クレーン則78条 |
| 玉掛用具 | ワイヤロープ・つりチェーン・繊維ロープ・フックなどの異常の有無 | クレーン則220条 |
これらは条文の表現をそのまま項目にすると、監督署に「法定項目はどれですか」と聞かれたときにそのまま示せます。社内で追加する項目とは分けて書いておくと、どれが法定かが一目で分かります。このほか、研削といしは点検ではなく、その日の作業を始める前に1分以上の試運転をすることとされています(安衛則118条)。
機械ごとの点検表は、フォークリフトの点検表、クレーンの点検表、重機の点検表のまとめ、玉掛用具の点検で個別に扱っています。
(社内で決める)
(社内で決める)
印刷設計
法定義務がない機械の項目の決め方
旋盤・マシニング・コンプレッサーなど、法定の作業開始前点検が定められていない機械も多くあります。この場合の項目は「異常があったら止める判断につながるか」で選びます。
異音、油漏れ
→ 毎日見る
締結部の緩み
→ 月次に回す
→ 年次・専門業者へ
汎用的に使える始業前点検の項目例:
- 非常停止ボタンが作動するか
- 安全カバー・安全柵が正しく取り付けられているか
- インターロックが正常に働くか
- 油圧・空圧の漏れがないか
- 潤滑油・切削油の量が規定範囲か
- 異音・異臭がないか
- 工具・治具・チャックが確実に固定されているか
- 周囲に不要物がなく通路が確保されているか
現場に貼る様式の設計
手書き運用を前提にすると、設計の条件が決まります。
- A4横・1ヶ月1枚|縦に項目、横に1〜31日のマトリクス。月末に差し替えて綴じる
- 行の高さを確保|18pt以上。狭いと書けません
- 判定は記号1文字|○×/。文字を書かせると時間がかかります
- 異常時の記入欄を下部に大きく|ここだけは文章を書くので広く取る
- 点検者と確認者の欄を分ける|毎日サイン、確認者は週1回でよい
異常時の報告動線を様式に書く
点検表の最大の目的は、異常を見つけたときに正しく動くことです。様式の欄外に次を印刷しておきます。
① 機械を止める ② 「使用禁止」の札を掛ける ③ ○○(責任者)へ連絡
連絡先:内線△△/携帯□□
「誰に言えばいいか分からない」は、異常が報告されないよくある理由のひとつです。名前と連絡先を紙に印刷しておくだけで、報告しやすくなります。
機械 始業前点検表(Excel・無料)
縦に項目・横に31日のマトリクス様式です。判定はドロップダウン、異常時の内容と処置を書く欄つき。A4に収まる印刷設定済みで、そのまま現場に貼れます。
機械 始業前点検表を見る始業前点検表の保存期間と記録の扱い
上の表の作業開始前の点検について、労働安全衛生規則は点検を行うことは求めていますが、記録の作成や保存期間は定めていません。記録と3年間の保存が求められているのは、月例や年次の定期自主検査のほうです(フォークリフトは安衛則151条の23、車両系建設機械は169条など)。それでも始業前点検表を残す理由は3つあります。
- 異常の発見日が特定できる|いつから兆候があったかが分かる
- 実施の証明|労災調査で「点検していた」と示せる
- 点検の質が上がる|記録が残ると分かっていると、見方が変わります
運用は月末に回収してファイルに綴じるだけで十分です。保存期間は社内で決めます。異常の傾向を定期自主検査の記録と並べて見たいなら、定期自主検査の記録と同じ3年にそろえると探しやすくなります(保存期間の考え方は記録の保存期間の記事)。
いつ・誰が書くか
法令は、事業者に「その日の作業を開始する前に」点検を行うことを求めていて、誰が点検するかまでは決めていません。一般には、その日にその機械を使う作業者が、使い始める前に点検して書く形が多く使われています。交代で同じ機械を使う職場では、その日の最初に使う人が書く、と様式の欄外に書いておくと迷いません。
全部○が続いたら疑う
1ヶ月すべて○の点検表が並んでいたら、形骸化している可能性があります。実際には切削油が減る日も、異音がする日もあるはずです。確認者は「×が一度もない」ことを異常と捉えて、現場に声をかけてください。
日常点検・月次点検との役割分担は設備点検の種類と頻度にまとめています。
始業前点検表にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
始業前点検表で見る法定項目(作業開始前の点検の条文)そのものは、2023年以降も変わっていません。変わったのは、点検を教える範囲と、点検のまわりにある自主検査・機械の貸し借りの決まりです。日付順に並べます。
| 時期 | 出来事 | 始業前点検表への影響 |
|---|---|---|
| 2024年4月1日 | 労働安全衛生規則35条(雇入れ時等の教育)が改正され、一部の業種で「作業開始時の点検」などの教育を省略できるとしていた規定が削られた | 業種にかかわらず、雇い入れたときと作業内容を変えたときに、作業開始時の点検を教えることになった。点検表は教材としても使える |
| 2025年5月14日 | 労働安全衛生法などの改正法(令和7年法律第33号)が公布 | 個人事業者等への対策、機械等による労働災害の防止などが盛り込まれた |
| 2026年1月1日 | 特定自主検査を厚生労働大臣の定める基準に従って行う義務が施行(労働安全衛生法45条3項)。車両系建設機械などの基準は2025年12月24日に告示され、旧「定期自主検査指針」は廃止された | 年次の特定自主検査の中身が告示でそろった。始業前点検表の法定項目は変わらない |
| 2026年4月1日 | 改正法の主な部分が施行。注文者・元方事業者・機械の貸与者などが講じる措置の対象が、一人親方などの「作業従事者」に広がった | 同じ現場で一人親方が機械を使う場合も、点検の段取りを決めておく必要が高まる |
| 2026年5月27日 | 令和7年(2025年)の労働災害発生状況(確定値)を厚生労働省が公表。死亡者700人のうち、はさまれ・巻き込まれ117人 | 機械の非常停止や覆いの確認を、毎日見る項目に残しておく理由になる |
始業前点検表でポイントになるのは、法定の項目は条文のまま固定し、社内の項目だけを見直すことです。改正があっても直すのは社内の欄で済み、法定の欄は触らずに使い続けられます。
出典:労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)、労働安全衛生法(e-Gov法令検索)、労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の概要(厚生労働省)、特定自主検査の基準の告示(厚生労働省)、令和7年の労働災害発生状況(厚生労働省)
確認日は2026年10月3日です。自社の機械がどの条文の対象になるか、点検の範囲で迷うときは、所轄の労働基準監督署にご確認ください。
始業前点検表に出てくる用語
始業前点検表のまわりでは、似た言葉がいくつも使われます。法令の言葉と現場の言葉を分けて並べます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 作業開始前の点検 | その日の作業を始める前に、決められた事項について行う点検 | 安衛則151条の25・170条・194条の27、クレーン則36条など |
| 始業前点検・始業点検 | 作業開始前の点検を、現場で呼ぶときの言葉 | 法令上の定義はない |
| 日常点検 | 毎日行う点検の総称。法令で決まっていない機械の点検も含めて使われる | 法令上の定義はない |
| 定期自主検査 | 機械ごとに決められた期間(1か月、1年など)ごとに行う検査。結果を記録する | 労働安全衛生法45条1項 |
| 特定自主検査 | 定期自主検査のうち、資格を持つ人か検査業者が行う年次などの検査。基準に従って行う | 労働安全衛生法45条2項・3項 |
| 補修その他必要な措置 | 点検や検査で異常を認めたときに、直ちに講じる措置 | 安衛則151条の26・151条の58・171条・194条の28 |
| 作業開始時の点検に関する教育 | 雇い入れたときと作業内容を変えたときに行う教育の項目の1つ | 安衛則35条1項4号 |
始業前点検表の言葉でとくに押さえておきたいのは、作業開始前の点検は「点検」、月例・年次は「自主検査」と、法令で呼び方が分かれていることです。様式の題名をそろえておくと、記録の保存期間の取り違えが起きにくくなります。違いは定期自主検査とはで扱っています。
始業前点検表と一緒に押さえておきたいこと
始業前点検表の解説は、項目の例と様式で終わることが多くあります。点検のあとの動きと、点検表の外側で抜けやすいものを3つ挙げます。
異常を見つけたら、補修してから使う
フォークリフト、不整地運搬車、車両系建設機械、高所作業車では、作業開始前の点検で異常を認めたときは、直ちに補修その他必要な措置を講じることとされています(安衛則151条の26・151条の58・171条・194条の28)。玉掛用具も同じです(クレーン則220条2項)。点検表の異常欄の隣に「処置の内容」と「使用再開を決めた人」の欄を置くと、補修が済む前に使われることを防げます。
借りた機械は、貸す側の点検と受け取るときの確認を分ける
機械を貸す側は、貸す前に点検して異常があれば整備し、能力や使用上の注意を書いた書面を渡すこととされています(安衛則666条)。ただし、借りた側の作業開始前の点検が要らなくなるわけではありません。受け取った日の点検表に、書面を受け取ったかの欄を1つ足すと、貸す側と借りる側の点検がつながります。持ち込み機械の扱いは持ち込み時の点検表で扱っています。
新しく入った人には、点検表で教える
雇い入れたときと作業内容を変えたときの教育には、作業開始時の点検に関することが入っています(安衛則35条1項4号)。実際の点検表を使って、1項目ずつ見る場所と判定のしかたを見せると、教育と実務が同じ形になります。教育の記録の残し方は安全衛生教育の記録の保存にまとめています。点検が続かないときの直し方は始業前点検の定着にあります。
よくある質問
- Q. 始業前点検は誰が行いますか?
- 法令は事業者に点検を求めていて、誰が行うかまでは決めていません。一般には、その日にその機械を使う作業者本人が行います。使う人が自分の目で確かめることで、異常に気づいたときにすぐ使用を止められます。
- Q. 記録の保存義務がないなら、記録しなくてもよいですか?
- 作業開始前の点検の記録は法令で求められていませんが、実施の証明ができなくなります。労災調査や監督署の臨検で「点検していた」と主張する根拠がなくなるため、記録は残すことを強くおすすめします。
- Q. 機械が多すぎて点検表が管理しきれません
- 1機械1様式が原則ですが、同型機が複数ある場合は1枚に機械番号の列を作ってまとめられます。ただし異常があったときにどの機械か分かるようにしてください。
- Q. 点検を忘れた日はどうすればよいですか?
- 空欄のままにし、後から遡って記入しないでください。「実施していない」ことも記録の一部です。頻発する場合は、点検が業務動線に組み込まれていないサインです。
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本記事は一般的な情報の整理であり、法令への適合を保証するものではありません。個別の義務内容は所管行政庁または専門家にご確認ください。記事の内容は2026-10-03時点の情報です。