設備台帳と保全履歴の作り方|更新時期を判断できる記録の残し方
「この設備、そろそろ替えたほうがいいのでは」。そう思っても、根拠がなければ稟議は通りません。設備の更新は数百万円規模になることもあり、感覚では決裁が下りないのが現実です。
根拠になるのが保全履歴です。この記事では、設備台帳と保全履歴に何を残せば更新の判断ができるようになるかをまとめます。
台帳に積み上げる日々の記録は、別の様式で取ることになります。1ヶ月1枚のマトリクスの設計は設備日常点検表の作り方にあります。
この記事の内容(9項目)
設備台帳と保全履歴は役割が違う
設備台帳
設備の基本情報。名称・型式・設置年月・メーカー・仕様。一度書けば変わらない情報。保全履歴
設備に起きたこと。故障・修理・部品交換・費用・停止時間。増え続ける情報。台帳だけでは更新判断ができません。「2018年設置」だけでは古いかどうかしか分からず、実際に困っているかが見えないためです。判断材料になるのは履歴のほうです。
保全履歴に残す8項目
1件の故障・修理につき1行。次の8項目があれば更新の判断ができます。
| 項目 | なぜ必要か |
|---|---|
| 発生日 | 頻度の分析に使う。年に何回止まっているか |
| 区分(故障/不具合/予防保全/改造/定期交換) | 突発的な故障が増えているかが見える |
| 事象(何が起きたか) | 同じ箇所が繰り返し壊れていないか |
| 原因 | 経年劣化か、使い方か。対策が変わる |
| 処置内容 | 応急処置か恒久対策か |
| 交換部品・費用 | 累積修繕費が更新費用に近づいたら替え時 |
| 停止時間 | 生産や営業への影響を金額換算できる |
| 再発防止策 | 同じ故障を繰り返さないため |
主要指標
可視化する
の推移
が切れると詰む
停止時間は、故障の記録から抜けやすい項目です。ただ、ここが金額に換算しやすく、稟議で説明しやすくなります。「年間20時間停止=生産◯個分の損失」と示せると、更新費用との比較ができます。
更新時期を判断する4つのサイン
近づいてきたら検討開始
増えてきた
=直せなくなる
回らない設備になった
③の補修用性能部品の保有期限は、メーカーが製造終了後に修理用の部品を持ち続ける期間です。期間はメーカーや機種ごとに決められているので、問い合わせて確かめます。過ぎると部品が手に入らず、修理できなくなることがあります。設備台帳に「製造終了年」「部品保有期限」を書く欄を作っておくと、計画的に更新できます。
予算化のタイミング
設備更新は年度予算に載せる必要があるため、実際に壊れる前に判断しなければなりません。修繕費が累積し始めた段階で「◯年度に更新」と計画を立て、それまでは延命する。この判断のために履歴があります。
日常・月次点検とのつながり
保全履歴は「壊れたときだけ書くもの」ではありません。日常・月次点検で記録した測定値の変化が、故障の予兆になります。
- 電流値が上がってきた|負荷の増大、軸受けの劣化
- 振動が大きくなった|アンバランス、ベアリングの摩耗
- 温度が高めで推移|冷却不良、絶縁劣化
- 油の消費が増えた|シールの劣化、内部漏れ
これらは数値で記録していないと見えません。○×だけの点検表では「正常」としか残らず、傾向が追えません。月次点検で測定値を残す設計にしておくと、履歴と組み合わせて予兆をつかめます(設備月次点検表)。
点検の種類と頻度の設計は設備点検の種類と頻度にまとめています。
Excelが破綻するタイミング
保全履歴はExcelで十分管理できますが、限界が来る条件があります。
- 設備の数が増える(目安として30台前後)|シートが増え、横断的な分析ができなくなる
- 複数人で記録する|ファイルの取り合いが発生する
- 写真を残したい|Excelに貼るとファイルが重くなる
- 過去の履歴を検索したい|「この部品、前にいつ替えたっけ」が探せない
特に4番目は、履歴を蓄積する意味そのものに関わります。探せない記録は無いのと同じです。設備ごとにファイルを分けると横断検索ができなくなるため、1ファイルに全設備を入れて設備番号で絞り込む形のほうが実務的です。
それでも追いつかなくなったら、点検の期限管理とあわせてツール化を検討する段階です(期限管理の記事)。ただしまずはExcelで1年運用してみることをおすすめします。何を記録すべきかが分からないままツールを入れても、結局使われません。
設備台帳・保全履歴にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
設備台帳と保全履歴の作り方そのものを決めた法律はありません。ただ、台帳に載せる設備のうち、法定の自主検査がある機械や、更新の判断に関わる税の扱いは、ここ数年で変わっています。日付順に並べます。
| 時期 | 出来事 | 設備台帳・保全履歴への影響 |
|---|---|---|
| 2025年5月14日 | 改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)の公布 | 施行日が分かれているので、自社の設備に関係する項目を拾っておく |
| 2025年12月24日告示 2026年1月1日適用 | 特定自主検査の基準(車両系建設機械など)が告示され、事業者と検査業者に基準を守る義務ができた(労働安全衛生法45条3項)。それまでの「定期自主検査指針」は廃止された | フォークリフトや建設機械を台帳に載せているなら、検査の記録の欄と検査業者の名前を見直す |
| 2026年3月31日公布 | 所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)。中小企業者等の少額減価償却資産の特例は、現行の条文で取得価額40万円未満、2029年3月31日までとなっている(租税特別措置法67条の5) | 更新か修理かを比べるときの税の扱いが変わる。適用の条件は税務署や税理士に確かめる |
| 2026年4月1日 | 改正労働安全衛生法の主な施行。注文者・元方事業者・機械の貸与者などの措置の対象が、一人親方などの「作業従事者」に広がった | 機械を貸す・借りるときの点検と書面(労働安全衛生規則666条)を、保全履歴の1行として残す |
設備台帳・保全履歴で押さえておきたいのは、法定の検査がある設備は、台帳に検査の周期と記録の保存期間を書く欄を足すことです。改正があっても、どの設備が対象かがすぐに分かります。
出典:令和7年の改正労働安全衛生法の概要(厚生労働省)、特定自主検査の基準の告示(厚生労働省)、租税特別措置法(e-Gov法令検索)、令和8年度税制改正の大綱(財務省)
確認日は2026年10月3日です。法定の検査は所轄の労働基準監督署、税の扱いは所轄の税務署にご確認ください。
設備台帳・保全履歴に出てくる用語
設備台帳と保全履歴の作り方で出てくる言葉を並べます。現場の言葉と、法令や税で意味が決まっている言葉が混ざっています。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 設備台帳 | 設備の名称・型式・設置年月・メーカー・仕様など、変わらない情報をまとめた一覧 | 法令上の定義はない |
| 保全履歴 | 故障・修理・部品交換・費用・停止時間など、設備に起きたことを1件ずつ残した記録 | 法令上の定義はない |
| 予防保全・事後保全 | 予防保全は壊れる前に手を入れること、事後保全は壊れてから直すこと | 法令上の定義はない |
| 定期自主検査 | 一定の機械について、事業者が定期に行う検査。記録の保存は機械ごとに定められている(車両系建設機械は3年、労働安全衛生規則169条) | 労働安全衛生法45条1項 |
| 特定自主検査 | 定期自主検査のうち、フォークリフトや車両系建設機械などで、資格を持つ者または検査業者が行うもの | 労働安全衛生法45条2項 |
| 法定耐用年数 | 税法で資産の種類ごとに決めた減価償却の年数。実際の寿命とは別 | 減価償却資産の耐用年数等に関する省令 |
| 資本的支出 | 修理などの名目でも、使える期間を延ばしたり価値を高めたりする部分の支出。その年の費用にはできない | 法人税法施行令132条 |
| 補修用性能部品 | 製品の機能を保つために要る修理用の部品。保有期間はメーカーや機種ごとに決められている | 法令上の定義はない |
設備台帳・保全履歴でポイントになるのは、修理の費用がすべてその年の経費になるわけではないことです。保全履歴の費用の欄に「修繕」か「資本的支出」かを書き分けておくと、経理とのやり取りが早くなります。
設備台帳・保全履歴と一緒に押さえておきたいこと
設備台帳の作り方の解説は、載せる項目とExcelの形で終わることが多くあります。台帳を法定の点検や更新の判断に使うときに、あわせて見ておきたい点を3つ挙げます。
法定の自主検査がある機械は、周期と保存期間を台帳に書く
フォークリフトや車両系建設機械などは、年次と月例の定期自主検査と、その記録の3年保存が定められています(車両系建設機械は労働安全衛生規則167条・168条・169条、フォークリフトは151条の21・151条の22・151条の23)。保全履歴の1行とは別に、台帳に「法定検査の種類・次回の期限・記録の保存期間」の列を足すと、期限切れが見えるようになります。費用の目安は特定自主検査の費用にまとめています。
業務用エアコンや冷凍機は、フロンの点検記録を廃棄後3年残す
フロン排出抑制法では、業務用の冷凍空調機器の管理者に、3か月に1回以上の簡易点検と、一定の出力以上の機器の定期点検が求められています。点検と整備の記録は、機器を廃棄してフロン類の引渡しが終わった日から3年間保存するとされています。設備台帳に冷媒の種類と定格出力の欄を足しておくと、どの機器が定期点検の対象かを台帳から拾えます。
更新か修理かは、税の扱いも並べて見る
修理の名目でも、使える期間を延ばしたり価値を高めたりする部分は資本的支出として扱われ、その年の費用にはできないとされています(法人税法施行令132条)。一方、中小企業者等が取得価額40万円未満の資産を取得した場合は、条件を満たせば取得した年度に全額を損金にできる特例があります(租税特別措置法67条の5)。保全履歴の費用を、修繕費と資本的支出に分けて記録しておくと、更新の稟議で比べる数字がそろいます。扱いは税務署や顧問の税理士にご確認ください。
よくある質問
- Q. 設備台帳に載せる設備の範囲は?
- 止まると業務に影響するもの、法定点検の対象になるもの、修理に一定額以上かかるものを基準にすると絞れます。すべての設備を載せようとすると作成で力尽きます。
- Q. 過去の履歴がない場合はどうすればよいですか?
- 請求書や発注履歴から修理の記録をたどれます。完全に復元できなくても、今日から記録を始めれば1年後には判断材料になります。
- Q. 減価償却の耐用年数と更新時期は同じですか?
- 別物です。法定耐用年数は税務上の区分で、実際の寿命とは一致しません。使用環境・稼働率で大きく変わるため、実際の履歴で判断してください。
- Q. 予防保全と事後保全のどちらがよいですか?
- 設備によります。止まると生産が止まる設備は予防保全、代替が効く設備は事後保全が合理的です。すべてを予防保全にするとコストが過剰になります。
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本記事は一般的な情報の整理であり、法令への適合を保証するものではありません。個別の義務内容は所管行政庁または専門家にご確認ください。記事の内容は2026-10-03時点の情報です。