建機の点検記録3年保存|何を残し、何は残さなくてよいか
「点検記録は3年保存」と覚えている方は多いはずです。ただ実際には、3年ではないものと、そもそも保存義務が無いものが混ざっています。全部まとめて3年で運用すると、必要なものが抜けたり、不要なものを抱え込んだりします。
この記事では、建設現場で発生する点検・検査の記録を条文ごとに整理します。判断の軸はひとつで、その条文が「自主検査」と呼んでいるか、「点検」と呼んでいるかです。
この記事の内容(8項目)
- 3年保存になるもの・ならないもの
- なぜ作業開始前点検に保存義務が無いのか
- 記録すべき6項目
- 「対象外」を空欄にしない
- 結果が「否」のときの措置欄
- 保存の実務
- 1. 機械単位で残す
- 2. 電子で残してよいか
- 3. 3年の起算
- 4. 保存期間の違うものを混ぜない
- 記録が無いことに気づいたとき
- 建機の点検記録の保存にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
- 建機の点検記録の保存に出てくる用語
- 建機の点検記録の保存と一緒に押さえておきたいこと
- レンタルの建機は、借りた側にも検査と記録の義務がある
- しばらく使わなかった機械は、再開時の記録が抜けやすい
- 車検の点検で済ませた部分は、記録にそう書いておく
- 検査標章をはっても、記録の代わりにはならない
- よくある質問
3年保存になるもの・ならないもの
対象ごとに条文と保存期間を並べます。足場だけ考え方が違う点に注目してください。
| 対象 | 何の記録 | 保存 | 条文 |
|---|---|---|---|
| 車両系建設機械 | 年次(167条)・月例(168条) | 3年 | 安衛則169条 |
| フォークリフト | 年次(151条の21)・月例(151条の22) | 3年 | 安衛則151条の23 |
| 高所作業車 | 年次(194条の23)・月例(194条の24) | 3年 | 安衛則194条の25 |
| 不整地運搬車 | 2年ごと(151条の53)・月例(151条の54) | 3年 | 安衛則151条の55 |
| 絶縁用保護具等 | 6か月ごとの絶縁性能の自主検査 | 3年 | 安衛則351条4項 |
| 特別教育 | 実施の記録 | 3年 | 安衛則38条 |
| 足場(点検のタイミング) | 悪天候・中震以上の地震・組立て・一部解体・変更の後の点検 | 仕事が終了するまでの間 | 安衛則567条3項(注文者は655条2項) |
| 作業開始前点検 | その日の点検(建機は170条、足場は567条1項ほか) | 保存義務なし | 記録を求める条文がない |
「自主検査」
記録して保存する条文が付いている。3年「点検」
作業開始前の点検には記録条文が無い。足場の点検は工事に紐づく保存
なぜ作業開始前点検に保存義務が無いのか
記録を定めた安衛則169条は「前二条の自主検査を行つたときは、次の事項を記録し、これを三年間保存しなければならない」と書いています。前二条=167条(年次)と168条(月例)です。170条の作業開始前は「点検」であって「自主検査」ではないため、条文の対象に入っていません。
ただし、実施したことを示す手段が何も無いのは別のリスクです。法令上の義務ではないことを理解したうえで、社内管理として残すかを決めてください。
記録すべき6項目
保存が必要な記録には、条文が定めた項目があります。どの機械でも構成は同じです。
| 記録事項 | 書き方のポイント | 抜けやすさ |
|---|---|---|
| 検査年月日 | 実施日。次回期限の起算になる | 低い |
| 検査方法 | 目視/作動確認/測定 など | 高い |
| 検査箇所 | 条文の号立てをそのまま行にすると漏れない | 低い |
| 検査の結果 | 良/否/対象外。対象外は空欄にしない | 中 |
| 検査を実施した者の氏名 | 検査業者に実施させた場合は「検査業者の名称」 | 中 |
| 検査の結果に基づいて補修等の措置を講じたときは、その内容 | 結果が「否」なのに空欄が最多の不備 | 最も高い |
「対象外」を空欄にしない
月例の第四号(特定解体用機械のみ)のように、機械によって対象外になる項目があります。空欄にすると実施漏れなのか対象外なのかが区別できません。「対象外」と記入してください。
結果が「否」のときの措置欄
6番目の項目は「検査の結果に基づいて補修等の措置を講じたときは、その内容」です。異常があったのに措置欄が空という記録は、実務で最もよく見かける不備です。その場で直せなかったなら「使用停止・○月○日修理予定」でも書いておくほうが、何も書かないより説明できます。
保存の実務
1. 機械単位で残す
現場単位でファイルを作ると、現場が終わった時点で記録が倉庫に入り、3年保存の対象がどこにあるか分からなくなります。管理番号ごとに1本にしてください。現場をまたいでも記録が追えます。
2. 電子で残してよいか
安衛則169条の記録は、「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令」(平成17年厚生労働省令第44号)の別表に挙がっています。最初からファイルで作る方法でも、紙をスキャナで読み取る方法でも保存できるとされています。必要なときにすぐ画面や紙で見せられることが前提です。スキャンして共有フォルダに入れるなら、ファイル名に管理番号と年月日を入れて検索できるようにしてください。
3. 3年の起算
条文に起算日の書き方はありませんが、各検査を行った(記録した)日から3年と数えるのが一般的です。機械を手放したら保存をやめてよい、という定めはありません。売却・返却した機械の記録まで一緒に処分してしまう事例があるので、3年たつまでは残しておくと安心です。
4. 保存期間の違うものを混ぜない
足場の点検記録は「仕事が終了するまでの間」です。同じ棚に3年保存のものと混ぜると、どちらの基準で捨ててよいか分からなくなります。保存の基準を記録の様式に書いておくと迷いません。
記録が無いことに気づいたとき
棚卸しをすると、記録が見つからない期間が出てくることがあります。取るべき順番があります。
やっていない検査の記録を後から作ることは避けてください。記録全体の信頼性を壊します。実施していない期間はそのように扱い、これからの計画を示すほうが説明が通ります。罰則と是正勧告の関係は特定自主検査を受けていないとどうなるかで扱っています。
関連:建機の点検期限を1枚で管理する、点検記録の保存期間。条文はe-Gov法令検索(労働安全衛生規則)で確認できます。
建機の点検記録の保存にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
建機の点検記録の保存期間(3年)と記録の6項目は、ここ数年変わっていません。変わったのは、検査の中身の基準と、措置の対象になる人の範囲です。日付順に並べます。
| 日付 | できごと | 点検記録への影響 |
|---|---|---|
| 2023年10月1日 | 足場の点検で点検者の指名が必要になり、記録に点検者の氏名が加わった(安衛則567条) | 保存は「足場を使用する作業を行う仕事が終了するまで」のまま |
| 2025年5月14日 | 改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)が公布された | 特定自主検査を基準どおりに行う義務(法45条3項)が新しく置かれた |
| 2025年12月24日 | 車両系建設機械などの特定自主検査基準が告示された | 検査の項目・方法・判定の基準を示すもの。旧「定期自主検査指針」は廃止 |
| 2026年1月1日 | 特定自主検査基準の適用と、法45条3項の施行 | 記録の「検査方法」「検査の結果」は、新しい基準の言葉に合わせておくとよくなる |
| 2026年4月1日 | 改正法の主な部分が施行。注文者・元方事業者・機械の貸与者などの措置の対象が、一人親方などの「作業従事者」に広がった | 2026年10月3日時点で、安衛則169条の「三年間保存」と6項目は変わっていない |
| 2026年5月27日 | 令和7年の労働災害の確定値が公表された。建設業の死亡は214人、全産業のはさまれ・巻き込まれは117人 | 機械の検査と記録が、災害防止の基本であることに変わりはない |
ポイントは、保存の年数は同じでも、記録に書く中身の物差しが変わったことです。2026年以降の年次検査の記録は、新しい特定自主検査基準の項目と見比べて、抜けがないかを一度確かめておくとよくなります。
出典:e-Gov法令検索(労働安全衛生規則)、厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案の概要」、厚生労働省 特定自主検査基準の制定等について、厚生労働省 令和7年の労働災害発生状況。確認日は2026年10月3日です。自社の記録の扱いは、所轄の労働基準監督署で確認してください。
建機の点検記録の保存に出てくる用語
建機の点検記録の保存を条文で読むときに出てくる言葉です。似ていても、記録の要る・要らないが分かれます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 定期自主検査 | 事業者が一定の機械について定期に行う検査。車両系建設機械は年次(1年以内ごと)と月例(1か月以内ごと) | 労働安全衛生法45条1項、安衛則167条・168条 |
| 特定自主検査 | 定期自主検査のうち、資格を持つ労働者か登録を受けた検査業者に行わせなければならないもの。車両系建設機械では年次の検査 | 労働安全衛生法45条2項、安衛則169条の2第1項 |
| 作業開始前点検 | その日の作業を始める前の点検。車両系建設機械はブレーキとクラッチの機能。記録の保存の定めはない | 安衛則170条 |
| 使用を再び開始する際の自主検査 | 1年を超えて使わなかった機械を使い始めるときの検査。167条の検査なので、記録は3年保存 | 安衛則167条2項・169条 |
| 検査業者 | 特定自主検査を業として行うために登録を受けた者。実施させたときは、記録の実施者欄に「検査業者の名称」を書く | 労働安全衛生法54条の3、安衛則169条の2第7項 |
| 検査標章 | 特定自主検査を行った年月が分かるステッカー。機械の見やすい箇所にはる | 安衛則169条の2第8項 |
| 事業内検査者 | 法令上の定義はない。社内で特定自主検査を行う資格を持つ人を指す通称。資格の要件は条文にある | 安衛則169条の2第2項〜5項(151条の24第2項の準用) |
建機の点検記録の保存と一緒に押さえておきたいこと
建機の点検記録の保存は「3年」だけ覚えておけば足りそうに見えますが、実務では次の場面で迷いが出ます。条文で確かめた範囲でまとめます。
レンタルの建機は、借りた側にも検査と記録の義務がある
建機の貸与者(リース会社など)は、貸す前に点検して必要な整備をし、能力や使用上の注意を書いた書面を渡すと定められています(安衛則666条1項)。一方で、月例の自主検査は使う事業者の義務です(168条)。借りている間の月例の検査と記録を、どちらが行うかを契約で決めておくと迷いません。借りた側で行ったなら、その記録も3年残します。
しばらく使わなかった機械は、再開時の記録が抜けやすい
1年を超えて使わない期間は年次検査が不要ですが、使い始めるときに同じ項目の検査が必要です(安衛則167条2項)。この検査も169条の記録の対象です。記録の様式に「再開時」の区分を持たせると、通常の年次検査と見分けがつきます。
車検の点検で済ませた部分は、記録にそう書いておく
公道を走る建機は、道路運送車両法48条1項の点検を行った部分について、167条の自主検査を省けます(安衛則169条の2第6項)。省けるのはその部分だけです。記録の検査方法の欄に「車両法48条の点検で実施(実施日)」と書き、点検整備記録簿と一緒に保存すると、どこを誰が見たのかを説明できます。
検査標章をはっても、記録の代わりにはならない
特定自主検査を行ったら、検査標章を機械にはる義務があります(安衛則169条の2第8項)。標章で分かるのは実施した年月だけです。検査の方法・結果・措置は記録にしか残らないので、標章と記録の両方がそろって初めて説明がつくと考えておくと安心です。
よくある質問
- Q. 建設機械の点検記録は何年保存しますか
- 定期自主検査(年次・月例)の記録は3年間です。車両系建設機械は安衛則169条、フォークリフトは151条の23、高所作業車は194条の25、不整地運搬車は151条の55がそれぞれ定めています。
- Q. 作業開始前点検の記録も3年保存ですか
- 法令上の保存義務はありません。記録を定めた条文は「前二条の自主検査を行つたときは」と書いており、年次と月例だけを指しています。作業開始前は「点検」であって「自主検査」ではないためです。社内管理として残すかは事業者の判断です。
- Q. 足場の点検記録も3年ですか
- 違います。足場の点検記録は「足場を使用する作業を行う仕事が終了するまでの間」の保存です(安衛則567条3項。注文者が点検する場合は655条2項)。年数ではなく工事に紐づくため、3年保存の記録と同じ棚に入れると管理が合わなくなります。
- Q. 記録に書くべき項目は何ですか
- 検査年月日、検査方法、検査箇所、検査の結果、検査を実施した者の氏名、検査の結果に基づいて補修等の措置を講じたときはその内容の6つです(安衛則169条)。どの機械でも構成は同じです。
- Q. 検査業者に依頼した場合、実施者欄には何を書きますか
- 「検査業者の名称」です。条文で読み替えが定められています(車両系建設機械は安衛則169条の2第7項)。社内の事業内検査者が実施した場合は、その検査者個人の氏名を書きます。
- Q. 対象外の項目は空欄でよいですか
- 「対象外」と記入してください。空欄にすると実施漏れなのか対象外なのかが区別できません。月例の第四号のように、機械によって対象外になる項目があります。
- Q. 電子データで保存してもよいですか
- 保存できます。安衛則169条の記録は平成17年厚生労働省令第44号の別表に挙がっており、ファイルで作る方法でも、紙をスキャナで読み取る方法でもよいとされています。必要なときにすぐ見せられる状態にしておくことが前提です。ファイル名に管理番号と年月日を入れて検索できるようにしておいてください。
- Q. 機械を売却したら記録も処分してよいですか
- 機械を手放したら保存をやめてよい、という定めはありません。3年は各検査を行った日から数えるのが一般的なので、売却・返却した機械の記録も、その期間が過ぎるまで残しておくと安心です。
- Q. 現場ごとにまとめて保存してもよいですか
- 機械の管理番号単位でまとめることをおすすめします。現場単位にすると、現場が終わった時点で記録が倉庫に入り、3年保存の対象がどこにあるか分からなくなります。
- Q. 過去の記録が見つかりません。作り直してよいですか
- 避けてください。実施していない検査の記録を後から作ることは、記録全体の信頼性を壊します。まず現在の状態を確認し、どの機械の何年分が無いかを把握したうえで、これからの実施計画を示すほうが説明が通ります。
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