職場巡視・安全パトロールのやり方|週1回の巡視で見る7領域と是正の回し方
職場巡視は、労働安全衛生規則で頻度まで決められた義務です。衛生管理者は少なくとも毎週1回、産業医は少なくとも毎月1回(事業者から所定の情報提供があり、事業者が同意した場合は2ヶ月に1回とすることも可)。
巡視を続けている職場ほど、次の悩みは「指摘したことが直りきらない」ことです。前回と同じ指摘が出たら、それは巡視の仕組みを一段よくする合図です。是正を期限で追いかける仕組みを足すと、巡視の手間はそのままで結果が変わります。この記事でその作り方を整理します。
この記事の内容(8項目)
誰が・どのくらいの頻度で巡視するか
| 誰が | 頻度 | 根拠 |
|---|---|---|
| 衛生管理者(常時50人以上の事業場で選任) | 少なくとも毎週1回 | 労働安全衛生規則11条 |
| 産業医(常時50人以上の事業場で選任) | 少なくとも毎月1回 (衛生管理者の巡視結果などを毎月受け取り、事業者の同意があれば2ヶ月に1回) | 労働安全衛生規則15条 |
| 安全管理者 | 作業場等を巡視(頻度の定めなし) | 労働安全衛生規則6条 |
| 安全委員会・衛生委員会・安全衛生委員会 | 毎月1回以上の開催 | 労働安全衛生規則23条 |
保存
頻度が高いぶん、毎回すべてを見ようとすると続きません。週次は「通路・整理整頓・保護具」など変化しやすい項目に絞り、月次で全領域を回すのが現実的です。
巡視で見る7領域
チェックリストは領域で区切ると漏れません。
| 領域 | 主な確認項目 |
|---|---|
| 通路・整理整頓 | 通路の有効幅、白線の明示、階段の物品、床の油・水、高所の不安定な積み上げ |
| 機械・設備 | 安全カバーの取り外し、非常停止の位置、インターロックの無効化、故障中の表示 |
| 電気 | タコ足配線、コードの被覆損傷、分電盤前の物品、アース接続 |
| 化学物質・有害物 | SDSの備え付け、容器のラベル表示、局所排気装置の稼働、保管場所の施錠 |
| 保護具・作業行動 | 着用状況、劣化・破損、不安全行動(近道・省略)、一人作業の連絡体制 |
| 作業環境 | 照度、換気、温湿度(熱中症)、騒音・振動、休憩室の衛生 |
| 防災・避難 | 消火器・消火栓の前の物品、避難経路、誘導灯、緊急連絡先の掲示 |
指摘が出やすいのは通路と整理整頓です。仕掛品が通路にはみ出す、消火器の前に段ボールが置かれる、といった指摘は繰り返し出がちです。ここが常にきれいに保たれている職場は、他の管理も行き届いていることが多いので、最初に見る領域にすると全体の様子がつかめます。
「指摘して終わり」を断つ仕組み
巡視が形骸化する原因は、指摘の行き先がないことです。指摘 → 是正責任者 → 期限 → 完了確認という流れを様式に組み込みます。
危険度(大中小)を付ける
その場で決める
未完了なら委員会へ
危険度を「大・中・小」で付けると優先順位が明確になります。危険度「大」は期限を待たずその場で措置(作業停止・立入禁止)が原則です。
安全衛生委員会との連携
期限を過ぎても是正されない案件は、安全衛生委員会の議題に上げるルールにします。予算が必要な案件は現場だけでは動かせないため、委員会で経営側の判断を仰ぐ流れを作っておきます。委員会の議事録は3年保存が必要です。
巡視を続けるための3つの工夫
- ルートを固定する|毎回同じ順路を回ると、前回との違いに気づきやすくなります。「いつもと違う」が最大の発見装置です
- 写真を撮る|言葉で伝わらないものが写真だと一発で伝わります。是正後の写真も撮ると、完了確認が楽になります
- 良い点も記録する|指摘だけだと現場が身構えます。改善された箇所を記録に残すと、巡視が「見張り」から「支援」に変わります
産業医の巡視を2ヶ月に1回にするには、事業者が毎月1回以上、①衛生管理者が行った巡視の結果と、②衛生委員会(または安全衛生委員会)の調査審議を経て産業医に提供すると決めた情報を産業医に渡していて、産業医が事業者の同意を得ていることが条件です(労働安全衛生規則15条)。衛生管理者の巡視記録がそのまま産業医への情報になるので、記録の形をそろえておくと両方が楽になります。なお衛生管理者の週1回は変わりません。
より詳細な巡視記録(指摘の追跡に特化した様式)が必要な場合は作業場巡視チェックリストもあります。保護具の劣化確認は保護具の点検と交換時期をあわせてご覧ください。
職場巡視チェックリストにかかわる最近の動き(2026年10月時点)
職場巡視チェックリストの土台になる巡視の頻度(週1回・月1回)は変わっていません。一方で、巡視で見るべき項目は、ここ数年の改正で増えています。日付順に並べます。
| 日付 | できごと | チェックリストへの反映 |
|---|---|---|
| 2023年4月1日 | 化学物質の自律的管理に関する改正省令(令和4年厚生労働省令第91号)の第1段階が施行 | 化学物質の欄に、ラベル・SDSの確認とリスクアセスメントの記録を足す |
| 2024年4月1日 | 同じ改正省令の第2段階が施行(化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任など) | 選任者の掲示、保護具の着用管理を確認する |
| 2025年6月1日 | 熱中症対策の義務化(労働安全衛生規則612条の2)。報告体制の整備と、悪化を防ぐ措置の手順を作業従事者に周知する | 作業環境の欄に、報告先と手順の掲示を足す |
| 2026年4月1日 | 改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)の主な部分が施行。個人事業者などを含む作業従事者の保護、高年齢労働者の労働災害防止の努力義務 | 一人親方や協力会社の作業も巡視の対象として見る |
| 2026年5月27日 | 令和7年(2025年)の労働災害の確定値を公表 | 全産業の死亡700人(過去最少)、休業4日以上135,333人。墜落・転落の死亡186人 |
| 2026年10月1日 | 化学物質の個人ばく露測定を作業環境測定の一つに位置付ける改正が施行 | 測定の実施状況を委員会の報告事項に入れる |
このほか、常時50人未満の事業場のストレスチェック義務化は、公布後3年以内に政令で定める日に施行とされています。日付が決まったら、巡視の後の委員会の議題に入れておくと漏れません。
出典:e-Gov法令検索(労働安全衛生規則)、京都労働局「令和6年4月1日から新たな化学物質規制が全面施行されます」、北海道労働局「安全衛生通信 令和6年4月号」、厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案の概要」、厚生労働省 令和7年の労働災害発生状況。確認日は2026年10月3日です。自社に当てはまるかは、所轄の労働基準監督署で確認してください。
職場巡視チェックリストに出てくる用語
職場巡視チェックリストを作るときに出てくる言葉を、法令上の位置づけと一緒に整理します。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 職場巡視(定期巡視) | 法令上の定義はない。条文は衛生管理者・産業医が「作業場等を巡視」することを定めている | 労働安全衛生規則11条・15条 |
| 安全パトロール | 法令上の定義はない。安全管理者の巡視(6条)や、建設現場の統括管理の一環として行う巡視を指して使われることが多い | 労働安全衛生規則6条 |
| 衛生管理者 | 常時50人以上の事業場で選任する。少なくとも毎週1回巡視し、有害のおそれがあれば直ちに措置する | 労働安全衛生法12条、規則11条 |
| 産業医 | 常時50人以上の事業場で選任する医師。少なくとも毎月1回(条件付きで2ヶ月に1回)巡視する | 労働安全衛生法13条、規則15条 |
| 衛生推進者・安全衛生推進者 | 常時10人以上50人未満の事業場で選任する。選任後は氏名を作業場に掲示などで周知する | 労働安全衛生規則12条の2〜12条の4 |
| 委員会の議事の記録 | 委員会の意見と、それを踏まえて講じた措置の内容などを記録し3年間保存する | 労働安全衛生規則23条4項 |
職場巡視チェックリストと一緒に押さえておきたいこと
職場巡視チェックリストは、製造現場を前提に作られたものが多く出回っています。次の3つを足すと、事務所や小さな事業場でも使える形になります。
事務所の職場巡視チェックリストは「照度」と「照明の点検」を入れる
事務所では、事務所衛生基準規則10条が作業面の照度を一般的な事務作業で300ルクス以上、付随的な事務作業で150ルクス以上と定めています(2022年12月1日施行の改正後の基準。厚生労働省のリーフレット)。同じ条文は、照明設備を6月以内ごとに1回定期に点検することも求めています。照度計で測った値と点検日を巡視記録に1行持たせると、オフィスの巡視でも根拠のある指摘になります。
安全管理者の巡視には頻度の定めがない
安全管理者は「作業場等を巡視し」危険のおそれがあれば直ちに措置すると定められていますが(労働安全衛生規則6条)、頻度の定めはありません。衛生管理者の週1回の巡視と同じ日に回ると、記録が1枚にまとまります。安全と衛生の欄を分けておくと、委員会への報告も分けやすくなります。
指摘の結果は、委員会の記録とつなげる
巡視の記録そのものには法定の保存期間がありません。一方で、委員会では意見と講じた措置の内容などを記録して3年間保存すると定められています(労働安全衛生規則23条4項)。是正に予算がいる指摘を委員会に上げたら、委員会の記録に巡視の指摘番号を書いておくと、指摘から是正までを3年分たどれます。
よくある質問
- Q. 衛生管理者の巡視を月1回にできませんか?
- できません。労働安全衛生規則11条で「少なくとも毎週1回」と定められています。2ヶ月に1回への緩和が認められているのは産業医の巡視(条件付き)だけです。
- Q. 巡視の記録に保存義務はありますか?
- 巡視記録そのものに法定の保存期間はありません。ただし安全衛生委員会の議事録は3年保存が必要で、巡視結果は委員会に報告されるのが通例です。巡視記録も3年を目安に保管することをおすすめします。
- Q. 小規模事業場で衛生管理者がいない場合は?
- 衛生管理者の選任義務は常時50人以上の事業場です。常時10人以上50人未満の事業場では衛生推進者(業種によっては安全衛生推進者)を選任します(労働安全衛生規則12条の2)。10人未満の事業場には選任義務がありません。いずれも巡視の頻度は法定されていませんが、月1回など社内で頻度を決めて回すと、気づきが記録に残ります。
- Q. 産業医の巡視を2ヶ月に1回にする条件は?
- 事業者が毎月1回以上、衛生管理者の巡視の結果と、衛生委員会または安全衛生委員会の調査審議を経て産業医に提供すると決めた情報を産業医に提供していて、産業医が事業者の同意を得ていることです(労働安全衛生規則15条)。
- Q. 職場巡視チェックリストに厚生労働省の決まった様式はありますか?
- 法令で定められた様式はありません。巡視の頻度は規則で決まっていますが、何を見るかは事業場ごとに決めます。この記事の7領域を土台に、自社で起きた災害やヒヤリハットの項目を足していくのが実務的です。
- Q. 指摘事項が多すぎて回りません
- 危険度で優先順位を付けてください。「大」=即時措置、「中」=期限付きで是正、「小」=次回までに改善、と分けると現実的に回ります。すべてを同時に直そうとすると何も進みません。
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本記事は一般的な情報の整理であり、法令への適合を保証するものではありません。個別の義務内容は所管行政庁または専門家にご確認ください。記事の内容は2026-10-03時点の情報です。