局所排気装置の定期自主検査|1年ごとの義務と、記録に残す項目
有機溶剤や特定化学物質、粉じんを扱う職場には、作業者が有害物を吸い込まないよう局所排気装置(局排)が設置されています。この装置は「動いていれば良い」わけではなく、1年以内ごとの定期自主検査と記録の3年保存が法令で義務付けられています。
フードの吸い込みが弱くなっても、見た目では分かりません。だから測定して記録に残す必要があります。この記事では検査項目と要求値、記録に残すべきことを整理します。
この記事の内容(9項目)
義務の根拠と対象
局所排気装置の定期自主検査は、労働安全衛生法45条1項と労働安全衛生法施行令15条1項9号を受けて、扱う物質ごとの規則で定められています。周期と記録の決まりはどの規則もほぼ同じ形です。
| 扱う物質 | 根拠となる規則 | 検査の頻度 |
|---|---|---|
| 有機溶剤 | 有機溶剤中毒予防規則20条・20条の2(記録は21条) | 1年以内ごとに1回 記録は3年保存 |
| 特定化学物質 | 特定化学物質障害予防規則30条(記録は32条) | |
| 粉じん | 粉じん障害防止規則17条(記録は18条) | |
| 鉛・石綿など | 鉛中毒予防規則35条(記録は36条)、石綿障害予防規則22条(記録は23条)ほか |
(フードの型式による)
対象になるのは局所排気装置だけではありません。プッシュプル型換気装置はどの規則でも対象で、特定化学物質では除じん装置・排ガス処理装置・排液処理装置(特化則30条)、粉じんでは除じん装置(粉じん則17条)も1年以内ごとの検査対象です。設置しているものを規則ごとに洗い出しておくと漏れません。
なお、1年を超えて使わない装置は、使わない期間の検査は要りません。そのかわり使用を再び始める際に、同じ項目の自主検査を行うと定められています(有機則20条3項、特化則30条2項、粉じん則17条3項)。
検査する箇所と項目
検査は装置の入口から出口まで、空気の流れに沿って見ていきます。
条文が定める検査事項は、フード・ダクト・ファンの摩耗や腐食などの損傷、ダクトと排風機のじんあいの堆積、ダクト接続部の緩み、電動機とファンをつなぐベルトの作動、吸気と排気の能力などです(有機則20条2項、特化則30条1項、粉じん則17条2項)。有機則ではこれに排風機の注油状態が加わります。
制御風速の測定が要
フードの吸い込み能力を数値で確認するのが制御風速の測定です。熱線風速計などで測り、要求値を満たしているかを判定します。有機溶剤の場合、要求値は有機則16条の表で、囲い式フード0.4m/s、外付け式の側方吸引型と下方吸引型0.5m/s、上方吸引型1.0m/sと定められています。特定化学物質と粉じんは、それぞれの規則にもとづく厚生労働大臣の告示で別の値が定められているため、扱う物質の規則で確かめてください。
この数値を記録に残すことが最重要です。前回0.55、今回0.42と下がっていれば、ダクトの詰まりかファンの劣化が進行していると分かります。○×だけの記録では、この変化が見えません。
誰が検査するか|資格と講習
法令上、局所排気装置の定期自主検査に資格要件はありません。フォークリフトなどの「特定自主検査」(安衛法45条2項)とは違い、有資格者に限る決まりがないためです。ただし厚生労働大臣が自主検査指針を公表するとされており(安衛法45条4項)、局所排気装置については2008年3月27日公示の「局所排気装置の定期自主検査指針」で検査項目・方法・判定基準が示されています。
実務では次の2つに分かれます。
- 専門業者に委託|風速計・差圧計などの測定器を持ち、指針に沿った検査ができます。ほとんどの事業場がこちら
- 社内で実施|局所排気装置等の定期自主検査者を養成する講習(民間の団体などが開催)を受けた者が担当するのが一般的。受講は法令上の義務ではないが、指針どおりの測定を身に付けられる。測定器の準備が必要
いずれの場合も、記録を残して3年保存するのは事業者の義務です。業者に委託していても、報告書を受け取って保管しなければ義務を果たしたことになりません。
定期自主検査と「点検」は別
混同しやすいのですが、法令には点検という別の義務もあります。
定期自主検査
1年以内ごと。記録3年保存。制御風速の測定を含む詳細な検査。点検
初めて使用するとき分解して改造・修理したとき
に実施(有機則22条、特化則33条、粉じん則19条)。
フードを作り替えた、ダクトを引き直したなど、分解して改造や修理をした場合は、次の定期自主検査を待たずに点検が必要です。レイアウト変更のたびに確認する習慣をつけておくと安心です。粉じん則では、この点検の結果も記録して3年間保存すると定められています(粉じん則20条)。
局所排気装置 定期自主検査 記録表(Excel・無料)
検査箇所・検査項目・検査方法・測定値・要求値・判定・補修内容・措置年月日を1行で記録できます。制御風速などの測定値を数値で残せる設計です。
定期自主検査 記録表を見る検査で不適合が出たら
自主検査や点検で異常を認めたときは、直ちに補修(粉じん則では「補修その他の措置」)を講じると定められています(有機則23条、粉じん則21条など)。制御風速が要求値を下回ったときによくある原因と対処は次のとおりです。
| 症状 | よくある原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 制御風速の低下 | ダクト内の粉じん堆積 | ダクト清掃。堆積しやすい箇所(エルボ・水平部)を重点的に |
| 制御風速の低下 | 除じん装置のろ材目詰まり | ろ材の清掃・交換。差圧を記録しておくと交換時期が読める |
| 吸い込みのムラ | フードの位置が発生源から離れた | フードを近づける。作業方法の見直し |
| 異音・振動 | ファンの軸受け劣化、羽根の摩耗 | 整備・部品交換 |
補修した場合は補修の内容と年月日も記録します。指摘して終わりではなく、直した記録までが1セットです。
局所排気装置は、化学物質のリスクアセスメント(リスクアセスメント管理表)で「工学的対策」として位置づけられる設備です。装置があること自体がリスク低減措置なので、その性能が落ちればリスク評価もやり直しになります。年1回の検査は、そのための定点観測でもあります。
局所排気装置の定期自主検査にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
局所排気装置の定期自主検査そのものの周期(1年以内ごと)と記録(3年保存)は変わっていません。変わってきたのは、化学物質の自律的な管理の流れの中での位置づけです。2023年以降の動きを日付順に並べます。
| 時期 | できごと | 根拠 |
|---|---|---|
| 2023年4月1日 | 化学物質の管理が一定の水準にあると都道府県労働局長が認定した事業場は、有機則などの規定(保護具の規定の一部を除く)が適用されない制度が始まる。認定の要件には、専属の化学物質管理専門家の配置、過去3年間の作業環境測定がすべて第一管理区分であることなどがある | 有機則4条の2、特化則2条の3ほか |
| 2024年4月1日 | 作業環境測定で第三管理区分になった場所は、外部の作業環境管理専門家の意見を聴き、改善の措置を講じることが義務になる。局所排気装置の改善はその代表的な措置 | 有機則28条の3の2、特化則36条の3の2ほか |
| 2025年5月14日 | 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)が公布。主な施行は2026年4月1日 | 改正法の概要 |
| 2026年1月1日 | 登録機関や検査業者に、検査基準を守る義務が課される。対象はフォークリフトなどの特定自主検査を行う検査業者で、局所排気装置の定期自主検査は特定自主検査ではないため直接の対象ではない | 改正法の概要、安衛法45条 |
| 2026年10月1日 | 個人ばく露測定が作業環境測定の一つに位置づけられ、作業環境測定士などによる実施が担保される。局所排気装置の効き目を作業者の側から確かめる測定になる | 改正法の概要(作業環境測定法) |
ポイントはここです。局所排気装置の定期自主検査の記録は、作業環境測定の結果と並べて見ると意味が増します。制御風速が下がった年に測定の管理区分も悪くなっていれば、装置の性能低下が原因だと説明できます。
出典:厚生労働省 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の概要、e-Gov法令検索(有機溶剤中毒予防規則)、e-Gov法令検索(特定化学物質障害予防規則)、e-Gov法令検索(労働安全衛生法)。確認日は2026年10月3日です。自分の職場の扱いは所轄の労働基準監督署にご確認ください。
局所排気装置の定期自主検査に出てくる用語
局所排気装置の定期自主検査の記録表や報告書には、条文の言葉がそのまま出てきます。どこで決まっている言葉かを添えて並べます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 定期自主検査 | 事業者が定期に行う自主的な検査。結果を記録しておく義務がある | 安衛法45条1項 |
| 特定自主検査 | 定期自主検査のうち、有資格者か登録検査業者が行うもの。フォークリフトなどが対象で、局所排気装置は含まれない | 安衛法45条2項 |
| 自主検査指針 | 特定自主検査以外の定期自主検査を適切に行うために厚生労働大臣が公表する指針 | 安衛法45条4項 |
| 制御風速 | 囲い式フードは開口面の最小風速、外付け式フードは吸引範囲内でフードの開口面から最も離れた作業位置の風速。すべてのフードを開放した状態で見る | 有機則16条の表の備考 |
| 囲い式フード・外付け式フード | 発散源を囲うフードと、発散源の外側から吸い込むフード。外付け式は吸引の向きで側方・下方・上方に分ける | 有機則16条 |
| プッシュプル型換気装置 | 吹き出し側と吸い込み側のフードで一様な気流を作る換気装置。厚生労働大臣が定める要件を満たすように稼働させる | 有機則18条4項 |
| 除じん装置 | 排気に含まれる粉じんを取り除く装置。ろ過除じん方式ではろ材の破損や取付部の緩みが検査事項になる | 特化則30条1項3号、粉じん則17条2項3号 |
| 点検 | 初めて使うときと、分解して改造・修理したときに行うもの。定期自主検査とは別の義務 | 有機則22条、特化則33条、粉じん則19条 |
| 熱線風速計 | 制御風速の測定によく使われる計器。法令上の定義はない | メーカーの資料 |
局所排気装置の定期自主検査と一緒に押さえておきたいこと
局所排気装置の定期自主検査は、検査を受けることより、結果を次の判断に使えるかで差が出ます。上位の記事であまり扱われていない点を3つ挙げます。
休止していた装置は、再開の前に検査を入れる
1年を超えて使っていない装置は、その間の定期自主検査は要りません。ただし使用を再び始める際に、定期自主検査と同じ項目の検査が必要です(有機則20条3項、特化則30条2項、粉じん則17条3項)。季節だけ動かす塗装ブースなどは、再開の日を記録表に書いておくと漏れません。
新設・移設は30日前の計画の届出がある
有機溶剤や特定化学物質などの局所排気装置は、設置・移転・主要構造部分の変更をしようとするとき、工事の開始の30日前までに労働基準監督署長へ計画を届け出ることとされています(安衛法88条1項、安衛則別表第七)。届出書類の設計値(制御風速・排風量)は、定期自主検査の判定の比較相手として使えます。記録表に設計値の欄を作っておくと、劣化の度合いが読めます。
検査をしないと罰則の対象になる
安衛法45条1項に違反した場合は、50万円以下の罰金の対象とされています(安衛法120条1号)。委託している場合も、記録を受け取って3年保存しておくのは事業者です。報告書の受領日を記録表に書いておくと、保存の起点がはっきりします。
よくある質問
- Q. 1年間使わなかった装置はどうすればよいですか?
- 1年を超える期間使用しない装置は、その期間の定期自主検査は要りませんが、使用を再び開始する際に、定期自主検査と同じ事項について自主検査を行うと定められています(有機則20条3項、特化則30条2項、粉じん則17条3項)。結果は定期自主検査と同じく記録して3年保存します。
- Q. 制御風速の要求値はどこで分かりますか?
- 有機溶剤は有機則16条の表で、フードの型式ごとに0.4〜1.0m/sと定められています。特定化学物質と粉じんは、各規則にもとづく厚生労働大臣の告示で定められています。設置時の計画届(安衛法88条)の書類にも設計値が書かれているので、あわせて確認してください。
- Q. 検査記録の様式は決まっていますか?
- 法定の統一様式はありません。検査年月日・検査方法・検査箇所・検査の結果・検査を実施した者の氏名・補修等の措置の内容の6項目が記録されていれば自社様式で構いません(有機則21条、特化則32条、粉じん則18条)。検査の方法と判定基準は、厚生労働省の「局所排気装置の定期自主検査指針」で確認できます。
- Q. 検査を実施していないとどうなりますか?
- 労働基準監督署の臨検で是正勧告の対象になり、安衛法45条1項の違反は50万円以下の罰金の対象とされています(安衛法120条1号)。加えて、有害物のばく露による健康障害が発生した場合、装置の性能を確認していなかったことが事業者の責任として問われることがあります。
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本記事は一般的な情報の整理であり、法令への適合を保証するものではありません。個別の義務内容は所管行政庁または専門家にご確認ください。記事の内容は2026-10-03時点の情報です。