安全衛生

リスクアセスメントの進め方と記録様式|化学物質の義務化にどう対応するか

公開 2026-08-14更新 2026-10-31 執筆 点検板 編集部
点検板 編集部法令の原文と省庁の資料で確認:2026年10月31日

リスクアセスメントは「危険を洗い出して、重大なものから手を打つ」だけの単純な仕組みです。ところが化学物質については事業場の規模を問わず義務とされ、対象物質も2024年4月から段階的に追加されているため、対応に追われている職場が増えています。

この記事では基本の5ステップと、化学物質のリスクアセスメントで押さえるべき点、そして厚労省の無料ツールと自社の記録をどう分担するかを整理します。

実際に起きている事故の型を先に知っておくと、洗い出しの精度が上がります。多い型と起きたあとの順番は建設現場の事故で扱っています。

リスクアセスメント管理表(Excel・無料)作業ごとの危険性を洗い出し、低減措置・実施期限・再評価までを1枚で追う管理表。
テンプレートを見る
この記事の内容(9項目)

基本の5ステップ

リスクアセスメントの流れ
① 洗い出し危険性・有害性を
作業ごとに特定
→
② 見積り重篤度×発生可能性で
リスクを評価
→
③ 優先度リスクレベルで
順位付け
→
④ 低減措置優先順位に沿って
対策を実施
→
⑤ 記録結果と措置を記録
労働者へ周知
④の「優先順位」が重要。保護具は最後の手段で、まず設備・作業方法で減らす

低減措置の優先順位

対策には順番があります。上から検討し、できない場合に次へ下がります。

  1. 危険な作業をなくす・危険性の低いものに変える(本質的対策)
  2. 工学的対策|囲い、安全装置、局所排気装置など
  3. 管理的対策|作業手順の見直し、教育、立入禁止、作業時間の短縮
  4. 保護具の使用|最後の手段

いきなり「保護具を着けさせる」で終わらせないのが要点です。保護具は正しく着けないと効果がなく、着用は本人任せになるためです。

化学物質のリスクアセスメント|規模を問わず義務

リスクアセスメント対象物を製造・取扱いする事業場では、事業場の規模にかかわらずリスクアセスメントが義務と定められています(労働安全衛生法第57条の3)。対象物質は2024年4月から段階的に追加されており、2025年4月1日と2026年4月1日にも追加されました。扱っている製品が対象になったかは、仕入先から届くSDS(安全データシート)で確かめるのが早道です。

規模不問化学物質RAは
全事業場が対象
次回まで記録の保存
(最低3年)
周知労働者への周知が
セットで必要
無料厚労省ツール
CREATE-SIMPLE

実施が必要になるタイミング

実施する時期は、労働安全衛生規則第34条の2の7で次のように定められています。

  • 対象物を新規に採用・変更するとき
  • 作業方法・作業手順を変更するとき
  • そのほか、対象物の危険性・有害性等に変化が生じたとき、生じるおそれがあるとき(SDSの改訂で新しい情報が分かったときなど)

「1回やれば終わり」ではありません。SDSが改訂されたら再評価という点が見落とされやすいので、SDSの入手・更新の管理もセットで必要です。

厚労省の無料ツールと自社記録の分担

化学物質のリスク見積りには、厚生労働省がCREATE-SIMPLEという無料ツールを提供しています。物質名・取扱量・作業時間・換気状況などを入力すると、リスクの程度が見積もられます。

CREATE-SIMPLE(無料)

リスクの見積り・計算を担当。物質の情報を入れて見積もれるので、計算の仕組みを自作する必要がない。

自社の管理表

実施記録・低減措置の進捗・再評価の期限を担当。誰がいつまでに何をするかを追う。

この分担が実務的です。計算は無料ツールに任せ、自社の表は「決めたことを実行したか」を追うことに集中します。当サイトのリスクアセスメント管理表も、計算機能は持たせず記録と期限管理に絞った設計にしています。

リスクアセスメント 管理表(Excel・無料)

作業・危険性・想定災害・重篤度・発生可能性・リスクレベル・低減措置・実施責任者・実施期限・措置後の再評価まで1行で管理できます。記録は次の実施まで(3年以内に行ったときは3年間)残しておく前提の作りです。

リスクアセスメント管理表を見る

記録と周知|ここが抜けると意味がない

化学物質のリスクアセスメントでは、結果の記録・保存と労働者への周知がセットで求められます(労働安全衛生規則第34条の2の8)。保存の期間は「次にリスクアセスメントを行うまで」で、3年以内に次を行ったときは3年間と定められています。つまり、どの場合も最低3年は手元に残ることになります。

記録に残すこと

  • 対象物の名称
  • 対象業務の内容
  • リスクアセスメントの結果(危険性・有害性、リスクの見積り結果)
  • リスク低減措置の内容

周知の方法

次のいずれかの方法によると定められています(同条第2項)。

  • 作業場の見やすい場所に掲示・備え付け
  • 書面の交付
  • 電子データに記録し、作業場に常時確認できる機器を置く

周知は「知らせた記録」まで残すと確実です。朝礼で説明した日付、掲示した日付を管理表の備考に書いておきます。

化学物質管理者の選任

リスクアセスメント対象物を製造・取扱いする事業場ごとに、化学物質管理者を選任することが定められています(労働安全衛生規則第12条の5。選任すべき事由が生じた日から14日以内)。リスクアセスメントの実施、記録の作成・保存、労働者への周知などの管理を担います。結果に基づいて保護具を使わせる場合は、保護具着用管理責任者の選任も必要です(同第12条の6)。選任したら、その人の名前を管理表の実施者欄に入れておくと責任が明確になります。

リスクアセスメント管理表(Excel・無料)作業ごとの危険性を洗い出し、低減措置・実施期限・再評価までを1枚で追う管理表。
テンプレートを見る

機械・設備のリスクアセスメント

化学物質以外(機械・設備・作業行動)のリスクアセスメントは、努力義務とされています(労働安全衛生法第28条の2)。化学物質以外の調査で対象になるのは、製造業のほか、林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業、電気業・ガス業・旅館業・自動車整備業などの業種と定められています(同条ただし書、労働安全衛生規則第24条の11第2項)。義務かどうかにかかわらず、次の場面では実施する価値があります。

  • 新しい機械を導入するとき|据え付け前に危険源を洗い出すと、後付けの安全対策より安く済みます
  • ヒヤリハットが起きたとき|事故になる前が最も対策しやすいタイミングです
  • 作業方法を変えるとき|効率化のための変更が、新しい危険を生むことがあります

日常の職場巡視(職場巡視の記事)で見つかった指摘のうち、その場で直せないものをリスクアセスメントに上げる、という連携をつくると回りやすくなります。巡視は「見つける」、リスクアセスメントは「優先順位を決めて計画的に潰す」という役割分担です。

リスクアセスメントにかかわる最近の動き(2026年10月時点)

リスクアセスメントは、化学物質の分野で2023年から決まりが段階的に変わってきました。進め方そのものは同じですが、記録の残し方や担当者の置き方が変わっています。日付順に並べます。

時期できごと根拠
2023年4月1日化学物質のリスクアセスメントの結果を記録し、次の実施まで(3年以内なら3年間)保存して周知することが定められる。結果に基づき、ばく露を最小限度にする措置も始まる安衛則34条の2の8、577条の2第1項
2024年4月1日化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任、濃度基準値が定められた物質のばく露を基準以下にする措置が始まる。対象物質も追加される安衛則12条の5、12条の6、577条の2第2項
2025年4月1日ラベル表示・SDSの対象物質の決め方が、個別の名前を並べる形から「〇〇及びその化合物」などの書き方に改められ、対象物質が追加される労働安全衛生法施行令別表第9(山梨労働局の解説)
2025年5月14日改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)が公布される厚生労働省 改正法の概要
2026年4月1日有害性の区分が低い物質がラベル表示・SDSの対象に追加される。注文者などの措置の対象が一人親方などの作業従事者に広がる山梨労働局の解説/厚生労働省 改正法の概要
2026年5月27日令和7年の労働災害の確定値が公表される。全産業の死亡は700人で過去最少、休業4日以上の死傷者は135,333人厚生労働省 令和7年労働災害発生状況
2026年10月1日化学物質の個人ばく露測定に関する改正が施行される厚生労働省 改正法の概要

ポイントはここです。2023年4月から、化学物質のリスクアセスメントは「やったかどうか」だけでなく「記録を残して周知したか」まで問われる形になりました。今の管理表に、実施日・次回の予定・周知した日の3つの欄があるかを一度見ておくと安心です。

出典:e-Gov法令検索(労働安全衛生規則)、e-Gov法令検索(労働安全衛生法)、厚生労働省 化学物質による労働災害防止のための新たな規制について、山梨労働局 ラベル表示・SDS通知の対象物質に関する規定方法の変更、厚生労働省 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の概要、厚生労働省 令和7年の労働災害発生状況。確認日は2026年10月3日です。個別の扱いは所轄の労働基準監督署にご確認ください。

リスクアセスメントに出てくる用語

リスクアセスメントの資料には、法令の言葉と現場の言葉が混ざって出てきます。どちらの言葉かを分けておくと、監督署や仕入先とのやりとりで迷いません。

用語意味出典
リスクアセスメント法令上は「危険性又は有害性等の調査」。危険性・有害性を特定し、リスクを見積もり、低減措置を決める一連の手順安衛法28条の2・57条の3、安衛則12条の5
リスクアセスメント対象物リスクアセスメントをしなければならない化学物質。施行令18条の物と、SDSの通知対象物安衛則12条の5第1項
リスクけがや病気の重さと、それが起きる可能性の度合いの組み合わせ。法令上の定義はない厚生労働省「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」
リスク低減措置見積もったリスクを下げるための対策。なくす・設備で防ぐ・管理で防ぐ・保護具の順に検討する同指針
化学物質管理者リスクアセスメント対象物を扱う事業場ごとに選任し、リスクアセスメントの実施や記録の管理などを担う人安衛則12条の5
保護具着用管理責任者リスクアセスメントの結果に基づいて保護具を使わせるときに選任し、保護具の選び方・使い方・保守を管理する人安衛則12条の6
濃度基準値厚生労働大臣が定める、屋内作業場で労働者がばく露される濃度の基準安衛則577条の2第2項
SDS安全データシート。化学物質を譲渡・提供するときに渡す、危険性・有害性などを書いた文書安衛法57条の2
CREATE-SIMPLE厚生労働省が公開している化学物質のリスクの見積りツール。法令上の定義はない職場のあんぜんサイト

リスクアセスメントと一緒に押さえておきたいこと

リスクアセスメントの進め方が決まったら、次の3つを押さえておくと、記録が実際に使えるものになります。上位の解説ではあまり触れられていない点です。

リスクアセスメントとKY(危険予知)の違い

現場ではKY活動が広く行われていて、リスクアセスメントと同じものと思われることがあります。KYはその日の作業の前に、作業者がその場で危険を出し合う活動で、法令上の定義はありません。リスクアセスメントは作業や設備ごとに事業者が調べて、対策を計画的に打つ仕組みです。KYで繰り返し出てくる危険を、リスクアセスメントの洗い出しに持ち込むと、両方が生きてきます。

リスクアセスメントの書き方の例

1行に「作業・危険性・想定される災害・見積り・措置・担当と期限」をそろえると、読み返したときに判断の筋が追えます。

作業危険性・有害性想定される災害見積り低減措置担当・期限
部品の脱脂洗浄有機溶剤の蒸気吸い込みによる健康障害重篤度:中、可能性:高局所排気装置の設置、設置までは防毒マスク製造課長・翌月末

見積りの尺度(重篤度と可能性をそれぞれ何段階にするか)は法令で決まっていないため、自社の基準を管理表の最初に書いておくと、担当者が替わっても判定がぶれません。

保存期間は「次回の予定日」とセットで管理する

化学物質のリスクアセスメントの記録は、次に行うまで、3年以内に行ったときは3年間の保存と定められています(安衛則34条の2の8)。古い記録を捨ててよいかは、次のリスクアセスメントを行った日と、前回から3年たったかの両方で決まります。管理表に実施日と次回の予定日を並べておくと、廃棄の判断で迷いません。

点検板 編集部がまとめました様式を無料で配り、使い方と法令の決まりを記事にまとめています。法令の数字は e-Gov の原文で確かめてから載せています。

よくある質問

Q. リスクアセスメントの記録に決まった様式はありますか?
法定様式はありません。対象物の名称・業務の内容・結果・低減措置の内容が記録されていれば、自社の様式やExcelで構いません。
Q. CREATE-SIMPLEはどこで入手できますか?
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」から無料でダウンロードできます。Excelベースのツールで、インストールは不要です。
Q. リスクレベルの判定基準は決まっていますか?
法令で一律の基準はありません。重篤度と発生可能性の組み合わせでレベルを決める方法(マトリクス法)が一般的です。自社で基準を決め、その基準を記録に明記しておくと判断がぶれません。
Q. 小さな事業場でも必要ですか?
化学物質のリスクアセスメントは事業場の規模を問わず義務とされています(労働安全衛生法第57条の3)。従業員が数名でも、対象物を取り扱っていれば実施が必要になります。
Q. リスクアセスメントの記録は何年保存しますか?
化学物質のリスクアセスメントの記録は、次にリスクアセスメントを行うまで保存し、3年以内に次を行ったときは3年間保存すると定められています(労働安全衛生規則第34条の2の8)。どの場合も最低3年は残ることになります。個別の扱いは所轄の労働基準監督署に確認してください。
リスクアセスメント管理表(Excel・無料)作業ごとの危険性を洗い出し、低減措置・実施期限・再評価までを1枚で追う管理表。
テンプレートを見る

本記事は一般的な情報の整理であり、法令への適合を保証するものではありません。個別の義務内容は所管行政庁または専門家にご確認ください。記事の内容は2026-10-31時点の情報です。