労働基準監督署に点検記録の提示を求められたら|出すものと、足りないときの進め方
労働基準監督署の調査というと残業や賃金の話が思い浮かびますが、安全衛生の側では点検・検査の記録が見られます。災害が起きた後の調査、業種を絞った監督、申告を受けての調査など、きっかけはいくつかあります。
このとき困るのは、記録が無いことそのものより、「何を出せばよいのか分からない」ことと「揃っていないと分かったときにどうするか」です。慌てて記録を作ってしまうと、元の問題よりも重い話になります。
この記事では、点検記録の提示を求められたときに何を出すのか、3年分そろっていないときの進め方、是正勧告を受けた後の流れ、そして日ごろの備え方を整理します。条文は e-Gov法令検索で本文を確認したものです。
この記事の内容(11項目)
- 監督官が書類を見られる根拠|法91条1項
- 拒む・虚偽の陳述をすることには、別の罰則がある
- 点検・検査まわりで実際に出すもの
- 記録に何が書かれているかも見られる
- 「3年分そろっている」とはどういう状態か
- どこに置くかは決まっていない
- 揃っていないと分かったとき|作り直さない
- 是正勧告を受けたら|是正報告までの流れ
- 日ごろ備えておく形|台帳1枚と、置き場所
- 1. 対象と期限が1枚で見えること
- 2. 記録の置き場所が共有されていること
- 元請の受入れとは、求められるものが違う
- 点検記録の提示にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
- 点検記録の提示に出てくる用語
- 点検記録の提示と一緒に押さえておきたいこと
- 後日の報告を求められたら、期日までに出す
- 検査業者にも、特定自主検査の帳簿を残す義務がある
- 使用停止命令は、記録の不備だけでは出ない
- よくある質問
監督官が書類を見られる根拠|法91条1項
労働基準監督官の権限は、労働安全衛生法91条1項に書かれています。
労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業場に立ち入り、関係者に質問し、帳簿、書類その他の物件を検査し、若しくは作業環境測定を行い、又は検査に必要な限度において無償で製品、原材料若しくは器具を収去することができる。
点検記録は「帳簿、書類」にあたります。あわせて法100条3項に、監督官が事業者に必要な事項を報告させ、出頭を命ずることができるという規定があります。その場で出せなくても、後日提出を求められる形になります。この報告をしない、または虚偽の報告をしたときも、50万円以下の罰金の対象と定められています(法120条5号)。
拒む・虚偽の陳述をすることには、別の罰則がある
ここは押さえておいたほうがよい点です。法120条4号は、立入検査を拒み、妨げ、忌避したとき、質問に対して陳述をせず、または虚偽の陳述をしたときに50万円以下の罰金と定めています。
つまり「記録が無い」ことと「無いのに有ると言う」ことは別の問題です。前者は元の義務違反の話ですが、後者はこの条文の話になります。無いものは無いと言うのが、結果的にいちばん軽く済みます。
点検・検査まわりで実際に出すもの
安全衛生の調査で、点検・検査に関して求められることが多いのは次のあたりです。すべてが毎回求められるわけではなく、その事業場にある設備に応じて聞かれます。
| 書類 | 根拠 | 保存 |
|---|---|---|
| 特定自主検査の記録(年次。不整地運搬車は2年ごと) | 安衛則169条/151条の23/194条の25/151条の55/135条の2 | 3年 |
| 定期自主検査の記録(月例) | 同上 | 3年 |
| クレーンの定期自主検査・暴風後等の点検の記録 | クレーン則38条 | 3年 |
| 局所排気装置等の定期自主検査の記録 | 各規則 | 3年 |
| 作業開始前点検の記録(車両系の機械・クレーン) | 記録の条文なし(クレーン則38条は36条の点検を除いている) | 保存義務の規定なし |
| 特別教育の記録 | 安衛則38条 | 3年 |
| 技能講習の修了証 | 修了証は本人が持つ。事業者は写しで資格を確かめる | 事業者の保存義務の規定なし |
| 作業計画・作業主任者の選任 | 安衛則155条ほか | 保存期間の定めなし |
作業開始前点検には保存義務の規定がありません。ただし「記録が無い」ことと「点検をしていない」ことは、外からは区別が付きません。残していれば実施の説明ができるので、実務では残しておくほうが有利になります。保存年限の全体像は点検記録は何年保存すればよいのかにまとめています。
記録に何が書かれているかも見られる
紙の束があればよいわけではありません。定期自主検査の記録は、6つの事項がそろっている必要があります。
検査年月日/検査方法/検査箇所/検査の結果/検査を実施した者の氏名/補修等の措置を講じたときはその内容、の6つです。検査業者に実施させた場合、5号は「検査業者の名称」に読み替えられます(安衛則169条の2第7項ほか)ので、個人名が無くても不足ではありません。
「3年分そろっている」とはどういう状態か
保存期間の3年は、いま手元に3年ぶんが残っているかで見ます。次の検査を受けたら前のものを捨ててよい、という作りではありません。
| 検査 | 3年で残る件数の目安(1台あたり) |
|---|---|
| 特定自主検査(年次) | 3件 |
| 特定自主検査(不整地運搬車・2年ごと) | 1〜2件 |
| 定期自主検査(月例) | 36件 |
台数が増えると、月例のほうが先に破綻します。10台あれば月例だけで360件です。1台1ファイルで綴じている事業場が多いのは、この量になるとそれ以外の整理が難しくなるためです。複数台をまとめる形は建機の月例検査を複数台まとめて記録するで扱っています。
どこに置くかは決まっていない
保管場所は法令で決まっていません。紙でもデータでも構いません。決まっていないぶん、「どこにあるか」を知っている人が1人だけ、という状態になりやすいところです。台帳に保存場所の列を持たせておくと、担当が代わっても追えます。
揃っていないと分かったとき|作り直さない
調査の連絡が来てから確認して、記録が足りないと分かることがあります。ここでの分かれ道は1つです。
過去の日付で記録を作らない。実施していない検査の記録を作ることは、元の義務違反とは別の問題になります。
進め方としては、次の順が現実的です。
②が効きます。実施はしていて記録の受け取りだけ抜けている、という状態がかなりあります。検査標章の年月から、いつ・どの業者が検査したかをたどれるので、そこから控えの再発行を依頼できます。標章の読み方は検査標章の見方と貼り方にまとめています。
④は運用の話です。期限が切れている機械は、検査を受けるまで使わない形にするのがいちばん説明しやすくなります。使いながら手配を待つと、その間の運用について答えにくくなります。
是正勧告を受けたら|是正報告までの流れ
法令違反が確認されると、是正勧告書が交付されます。是正勧告書そのものは行政指導で、行政処分ではありません。ただし指定された期日までに是正して、是正報告書を出すことが求められます。
点検記録まわりで是正報告に書くことは、たいてい2つです。①未実施だった検査を実施したこと、②今後同じことが起きない仕組みにしたこと。②を「注意します」で終わらせると、次の調査で同じ話になります。
| 書くこと | 具体例 |
|---|---|
| 実施した検査 | 対象機械◯台について特定自主検査を実施し、記録を受領した(実施日・業者名) |
| 記録の管理 | 対象機械の一覧と次回期限を1枚の台帳で管理する形にした |
| 期限の把握 | 期限の◯日前に手配を始める運用を、担当と期日を決めて回す |
| 担当 | 台帳の管理担当と、代わったときの引き継ぎ方法 |
なお、法45条1項・2項の違反は50万円以下の罰金と定められています(法120条1号)。ただし是正勧告の段階でただちに罰則が科されるわけではありません。罰則の条文の読み方は特定自主検査を受けていないとどうなるかで扱っています。
日ごろ備えておく形|台帳1枚と、置き場所
調査は予告があることもあれば、無いこともあります。備えといっても、特別なことは要りません。やることは2つです。
1. 対象と期限が1枚で見えること
「対象機械が何台あって、それぞれいつ受けたか」が1枚で出れば、聞かれたその場で答えられます。逆に、ここが出てこないと、記録を探す前の段階で止まります。
特定自主検査 記録・検査標章 管理台帳は、機械の種類・検査の区分・周期・検査年月日を入れると、次回期限日・残日数・記録の保存期限(3年後)が自動で出る形にしてあります。設備も含めて法定点検を年間表で見たい場合は法定点検年間スケジュール表のほうが向きます。
2. 記録の置き場所が共有されていること
記録がどこにあるかを知っているのが1人だけ、という状態はよくあります。その人が休みの日に調査が来ると、手元にあるのに出せません。台帳に保存場所の列を持たせて、紙ならファイル名、データならフォルダ名を書いておくと解決します。
引き継ぎで抜けが起きやすい項目は点検の担当が変わるときに引き継ぐべきことにまとめました。
元請の受入れとは、求められるものが違う
点検記録を見せる場面はもう1つあります。元請の現場に機械を持ち込むときです。同じ「点検記録を出す」でも、見られるものが違います。
| 労働基準監督署の調査 | 元請の受入れ | |
|---|---|---|
| 見るもの | 法令で定められた記録が、定められた期間そろっているか | その機械がいま使える状態か |
| 期間 | 3年ぶん | 直近ぶん |
| 提出物 | 記録そのもの | 持込機械等使用届、点検表の写し、標章の写真など |
| 根拠 | 安衛法91条・各規則の記録条文 | 元請の管理基準(安衛法29条の指導・指示、30条の特定元方事業者の措置を背景に) |
元請に出す紙と社内に残す記録を同じものにしようとすると、どちらも中途半端になります。社内の記録は法令の記録事項に合わせ、元請に出すものはその写しや抜粋にするのが扱いやすい形です。詳しくは持込時の点検表とは、持込機械等使用届の書き方で扱っています。
点検記録の提示にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
点検記録の提示を求める権限(法91条・100条)そのものは変わっていませんが、提示する記録の中身と、監督署とのやり取りの形は2025年から2026年にかけて動いています。
| 時期 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 2025年1月1日 | 労働者死傷病報告などの報告が、原則として電子申請になった(当面は書面も可) | 改正労働安全衛生規則等、都道府県労働局の案内 |
| 2025年5月14日 | 改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)が公布された | 厚生労働省「改正法の概要」 |
| 2026年1月1日 | 特定自主検査は、厚生労働大臣の定める基準に従って行うと定められた。旧「定期自主検査指針」は廃止 | 安衛法45条3項、特定自主検査基準の告示 |
| 2026年4月1日 | 改正法の主な施行。元方事業者や特定元方事業者が講じる措置の対象が、一人親方などを含む「作業従事者」になった | 安衛法29条・30条、改正法の概要 |
| 2026年5月27日 | 令和7年の労働災害(確定値)を公表。全産業の死亡者は700人で過去最少、建設業は214人 | 厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」 |
点検記録の提示で影響が出るのは、2026年1月以降に受けた特定自主検査の記録です。ポイントは、検査業者から受け取る記録が新しい基準に沿った形になっているかを、受け取ったときに一度見ておくことです。基準の中身は特定自主検査の新基準で扱っています。
出典:徳島労働局「労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されます」/厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の概要」/厚生労働省 通達(特定自主検査基準の制定)/厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」
確認日は2026年10月3日です。調査や是正勧告の個別の扱いは、所轄の労働基準監督署に確認してください。
点検記録の提示に出てくる用語
点検記録の提示の場面では、条文の言葉と行政の実務の言葉が混ざります。法令に定めがあるものと無いものを分けておくと、何が義務で何が運用かが見分けられます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 立入検査 | 監督官が事業場に立ち入り、質問し、帳簿・書類などを検査すること | 安衛法91条1項 |
| 臨検(臨検監督) | 監督官が事業場を訪れて行う調査の呼び方 | 法令上の定義はない(権限は安衛法91条) |
| 報告・出頭 | 監督官が事業者や労働者に必要な事項を報告させ、出頭を命ずること | 安衛法100条3項 |
| 是正勧告書 | 違反を指摘し、期日までの是正を求める書面。行政指導にあたる | 法令上の定義はない |
| 是正報告書 | 是正勧告を受けた事業者が、是正した内容を監督署に伝える書面 | 法令上の定義はない |
| 使用停止命令等 | 作業や機械の使用の停止などを命ずる処分。対象は20条から25条などの違反 | 安衛法98条1項 |
| 特定自主検査 | 定期自主検査のうち、資格者か検査業者が行う検査 | 安衛法45条2項 |
| 検査業者 | 登録を受け、他人の求めに応じて特定自主検査を行う者 | 安衛法45条2項、54条の3 |
点検記録の提示と一緒に押さえておきたいこと
点検記録の提示に備えて台帳と置き場所を決めたら、次の3つも知っておくと、調査の場で慌てずに済みます。
後日の報告を求められたら、期日までに出す
その場で出せなかった記録は、法100条3項にもとづいて後日の報告を求められることがあります。報告をしない、または虚偽の報告をしたときは50万円以下の罰金の対象です(法120条5号)。期日に間に合わないときは、何が、いつまでにそろうかを先に伝えておくと、話が前に進みます。
検査業者にも、特定自主検査の帳簿を残す義務がある
検査業者は、特定自主検査に関する事項を帳簿に記載して保存すると定められています(法103条2項)。手元の記録が欠けていても、検査業者の帳簿から控えを出してもらえることがあるのは、このためです。保存する事項と期間は厚生労働省令で決まっているので、依頼の前に検査業者に確かめてください。
使用停止命令は、記録の不備だけでは出ない
使用停止命令等(法98条1項)の対象は20条から25条などの違反で、定期自主検査の45条は挙がっていません。記録が欠けていることだけで機械が止められる作りではありません。ただし、点検で見つかった異常を直さずに使っていた場合は、機械の危険を防ぐ措置の話になり得ます。異常の記録と補修の記録はセットで残しておくと、説明がしやすくなります。
確認先:所轄の労働基準監督署。条文は労働安全衛生法(e-Gov法令検索)で確認できます。
よくある質問
- Q. 労働基準監督署は点検記録を見る権限がありますか
- あります。労働安全衛生法91条1項が「事業場に立ち入り、関係者に質問し、帳簿、書類その他の物件を検査し」と定めていて、点検記録は帳簿・書類にあたります。法100条3項により、後日の報告を求められることもあります。
- Q. どの記録を用意しておけばよいですか
- その事業場にある設備によります。特定自主検査(年次)と定期自主検査(月例)の記録が3年ぶん、クレーン等があればクレーン則38条の記録、局所排気装置等があればその記録です。特別教育の記録(3年保存)や、運転する人の技能講習修了証の写しもあわせて聞かれることがあります。
- Q. 作業開始前点検の記録も必要ですか
- 法令上の保存義務の規定はありません。ただし記録が無いと実施したことの説明ができないため、実務では残しておくほうが有利になります。
- Q. 3年分というのはどう数えますか
- いま手元に3年ぶんが残っているかで見ます。次の検査を受けたら前のものを捨ててよい、という作りではありません。月例だと1台あたり36件になります。
- Q. 記録が足りないと分かりました。作ってもよいですか
- 実施していない検査の記録を作ることは避けてください。元の義務違反とは別の問題になります。まず検査業者に控えの再発行を依頼し、本当に未実施のものは、その機械の使用を止めて検査を手配するのが現実的な順序です。
- Q. 記録が無いと答えると不利になりませんか
- 無いものを有ると答えるほうが不利になります。法120条4号が、質問に対して虚偽の陳述をしたときについて50万円以下の罰金を定めています。現状と対応予定を説明するほうが結果的に軽く済みます。
- Q. 是正勧告書は行政処分ですか
- 行政指導です。ただし指定された期日までに違反状態を解消し、是正報告書を提出することが求められます。期日に間に合わない見込みのときは、無断で遅れずに事前に相談してください。
- Q. 是正報告書には何を書きますか
- 未実施だった検査を実施したことと、同じことが起きない仕組みにしたことの2つです。「注意します」で終わらせると次の調査で同じ話になるため、台帳・担当・期限の把握方法まで具体的に書くのが実務的です。
- Q. 特定自主検査を受けていないと、すぐ罰金になりますか
- ただちに罰則が科されるわけではありません。労働安全衛生法120条1号は45条1項・2項違反について50万円以下の罰金を定めていますが、通常はまず是正勧告と是正報告の流れになります。
- Q. 元請に出す点検表と、社内に残す記録は同じでよいですか
- 分けたほうが扱いやすくなります。社内の記録は法令の記録事項に合わせ、元請に出すものはその写しや抜粋にします。見られる期間も、監督署が3年ぶん、元請は直近ぶんと違います。
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