クレーン点検表の作り方と点検手順|作業開始前・月例・年次の3層
クレーンの点検は、フォークリフトや建機と同じく作業開始前・月例・年次の3層ですが、もう1つ「性能検査」という制度が乗ります。つり上げ荷重3t以上のクレーンには、検査証の有効期間があるためです。
この記事では、クレーン等安全規則に基づく3層の点検内容と、性能検査との関係、記録の残し方を整理します。
この記事の内容(8項目)
クレーンの点検・検査は4種類
「3層+性能検査」という構造です。性能検査だけは行政(または登録性能検査機関)が関わります。
| 種類 | 頻度 | 実施者 | 根拠・記録 |
|---|---|---|---|
| 作業開始前点検 | その日の作業前 | 事業者が行う(実施する人の定めはなく、一般に運転者など) | クレーン則36条/保存義務なし |
| 定期自主検査(月例) | 1ヶ月以内ごと | 事業者(法定の資格要件なし) | クレーン則35条/3年保存 |
| 定期自主検査(年次) | 1年以内ごと | 事業者(法定の資格要件なし) (荷重試験を含む) | クレーン則34条/3年保存 |
| 性能検査 | 検査証の有効期間ごと (原則2年) | 登録性能検査機関 | つり上げ荷重3t以上(スタッカー式は1t以上)が対象 |
(つり上げ荷重)
有効期間(原則)
記録保存
3t未満のクレーンは性能検査の対象外ですが、つり上げ荷重0.5t以上であれば3層の点検は同じく必要です。「小さいから不要」ではありません。なお、つり上げ荷重0.5t未満のクレーンにはクレーン等安全規則が適用されません(クレーン則2条1号)。
作業開始前点検の3項目
クレーン則36条が定めるのは次の3つです。
- 巻過防止装置、ブレーキ、クラッチ及びコントローラーの機能|巻き上げすぎを止める装置と、止める・つなぐ・操作する機能
- ランウェイの上及びトロリが横行するレールの状態|天井クレーンなら走行レール上の障害物・変形
- ワイヤロープが通っている箇所の状態|シーブ(滑車)まわり、ロープの通り道
実務では、これに玉掛け用具の点検が加わります。ワイヤロープ・スリング・フックは別の義務(クレーン則220条)なので、点検表も分けるのが正解です(玉掛け用具の点検と廃棄基準)。
+性能検査(3t以上)
(クレーン則220条)
玉掛け:技能講習/特別教育
月例と年次で見るもの
月例の定期自主検査(クレーン則35条)
- 巻過防止装置その他の安全装置、過負荷警報装置その他の警報装置、ブレーキ及びクラッチの異常の有無
- ワイヤロープ及びつりチェーンの損傷の有無
- フック、グラブバケット等のつり具の損傷の有無
- 配線、集電装置、配電盤、開閉器及びコントローラーの異常の有無
- ケーブルクレーンの場合は、メインロープ・レールロープ・ガイロープを緊結している部分の異常の有無と、ウインチの据付けの状態
1か月を超えて使わない期間は月例を行わなくてよい代わりに、使用を再び開始する際に同じ項目を検査します(35条2項)。
年次の定期自主検査(クレーン則34条)
年次検査の特徴は荷重試験が含まれることです(34条3項)。定格荷重に相当する荷重の荷をつって、つり上げ・走行・旋回・トロリの横行などの作動を定格速度で行います(34条4項)。実際に荷をかけるため、試験用の荷と段取りを前もって用意しておくと当日が短く済みます。
ただし、検査日の前2か月以内に性能検査の荷重試験を行ったクレーンや、検査日の後2か月以内に検査証の有効期間が満了するクレーンは、年次の荷重試験を省略できます(34条3項1号)。性能検査と年次検査の時期を近づけておくと、荷重試験を1回にまとめられます。
クレーン則38条は、この節の自主検査と点検(36条の作業開始前点検を除く)の結果を記録し、3年間保存することを求めています。条文に記録項目の列挙はありませんが、検査年月日・検査方法・検査箇所・結果・実施者・補修内容を残しておくと、他の機械の記録とそろいます。
性能検査|車検に似た制度
つり上げ荷重3t以上(スタッカー式は1t以上)のクレーンは特定機械等にあたり(安衛令12条1項3号)、クレーン検査証が交付されています。検査証の有効期間は2年が原則で(クレーン則10条)、更新するには性能検査を受けます(安衛法41条2項)。自動車の車検に近い制度です。
- 受検先|登録性能検査機関(安衛法41条2項)。法53条の3による場合は所轄労働基準監督署長が行います(クレーン則41条)
- 中身|各部分の構造・機能の点検と荷重試験(クレーン則40条)
- 更新される期間|性能検査の結果により、2年未満や、2年を超え3年以内の期間で更新されることもあります(クレーン則43条)
- 期限管理|検査証を受けていない特定機械等は使用してはならないとされています(安衛法40条1項)。有効期間を台帳で追ってください
- 年次自主検査との違い|年次は事業者が行う自主検査、性能検査は登録性能検査機関による検査。両方必要です
実務で漏れるのは、年次自主検査をやっているから性能検査も済んでいると誤解するケースです。検査証の有効期間を台帳に転記し、期限の2ヶ月前に受検手配を始める運用にしてください。期限管理の方法は期限管理の記事にまとめています。
クレーン点検表にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
クレーン点検表の元になるクレーン等安全規則の点検項目(34条〜36条)は、この期間に変わっていません。動きがあったのは、年次の検査の「検査方法と判定基準」を示す指針と、検査制度の側です。日付順に並べます。
| 時期 | できごと | 根拠 |
|---|---|---|
| 2025年5月14日 | 改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)が公布。クレーンなどの製造許可の一部(設計審査)や製造時等検査を、民間の登録機関が実施できる範囲が広がる。登録機関や検査業者への不正対処・欠格要件も強化される | 改正法の概要 |
| 2026年4月1日 | 改正法の主な部分が施行される | 改正法の概要 |
| 2026年4月30日 | 天井クレーンの定期自主検査指針(クレーン等安全規則34条の自主検査に係るもの)が公表される(自主検査指針公示第29号)。昭和60年12月18日の旧指針(公示第8号)は廃止 | 安衛法45条4項/厚生労働省 |
| 2026年5月27日 | 令和7年の労働災害の確定値が公表。全産業の死亡者は700人で過去最少、はさまれ・巻き込まれによる死亡は117人、墜落・転落は186人 | 厚生労働省 |
| 2027年4月1日(予定) | 新しい天井クレーンの定期自主検査指針(公示第29号)の適用日 | 自主検査指針公示第29号 |
ポイントはここです。天井クレーンの年次の検査は、2027年4月から新しい指針の検査項目・検査方法・判定基準が目安になります。厚生労働省のサイトには、月例(35条)の自主検査に係る天井クレーンの指針の本文も掲載されています。社内の年次点検表を指針の項目と突き合わせるのは、適用日の前の年次検査に合わせて行うと無理がありません。
出典:厚生労働省 自主検査指針公示第29号、天井クレーンの定期自主検査指針(34条関係)、天井クレーンの定期自主検査指針(35条関係)、厚生労働省 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の概要、厚生労働省 令和7年の労働災害発生状況。確認日は2026年10月3日です。個別のクレーンの扱いは所轄の労働基準監督署にご確認ください。
クレーン点検表に出てくる用語
クレーン点検表では、条文の言葉と現場の呼び名が混ざります。意味と出どころを表にしておきます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| つり上げ荷重 | クレーンの構造及び材料に応じて負荷させることができる最大の荷重 | 安衛令10条1号 |
| 定格荷重 | 荷重試験で用いる荷重の基準。年次の荷重試験は定格荷重に相当する荷重の荷をつって行う | クレーン則34条4項(定義は同1条) |
| 定期自主検査 | 事業者が定期に行う自主検査。クレーンでは年次(34条)と月例(35条) | 安衛法45条1項・クレーン則34条・35条 |
| 年次点検・月次点検 | 定期自主検査の現場での呼び名。法令上の定義はない | なし |
| 作業開始前の点検 | その日の作業を開始する前に行う3項目の点検。記録の保存義務の対象外 | クレーン則36条・38条 |
| 暴風後等の点検 | 屋外のクレーンで瞬間風速毎秒30mを超える風の後、または中震以上の地震の後に行う点検 | クレーン則37条 |
| 荷重試験 | 定格荷重に相当する荷をつり、つり上げ・走行・旋回・トロリの横行などを定格速度で行う試験 | クレーン則34条4項・40条2項 |
| 性能検査 | 検査証の有効期間を更新するための検査。登録性能検査機関が行う | 安衛法41条2項・クレーン則40条 |
| クレーン検査証 | 落成検査に合格したクレーンに交付される証。有効期間は原則2年。作業場所に備え付ける | クレーン則9条・10条・16条 |
| 天井クレーン | クレーン等安全規則でも使われる語(6条2項など)だが、用語の定義を置く1条には挙げられていない | クレーン則1条・6条2項/自主検査指針公示第29号 |
クレーン点検表と一緒に押さえておきたいこと
クレーン点検表は、条文の3層をそのまま欄にすれば形になります。そのうえで、点検表だけでは抜けやすい点を3つ挙げます。
暴風や地震の後の点検も、記録して3年残す
屋外に設置されたクレーンは、瞬間風速が毎秒30メートルを超える風が吹いた後に作業を行うとき、またクレーン全般で中震以上の震度の地震の後に作業を行うときは、あらかじめ各部分の異常の有無を点検することとされています(クレーン則37条)。この点検は38条の記録の対象で、3年保存の対象に入ります。月例・年次の欄しかない点検表には、臨時の点検を書ける行を1つ足しておくと、記録が散らばりません。
クレーンの定期自主検査に法定の資格要件はない
クレーンは、有資格者が行う特定自主検査の対象機械(安衛令15条2項)に含まれていません。そのため、月例・年次の定期自主検査を行う人に法令上の資格要件はありません。一方で、運転にはつり上げ荷重に応じた免許・技能講習・特別教育が必要です(クレーン則21条・22条)。検査を外部に依頼する場合も、記録を3年保存し、異常があれば直ちに補修する(39条)のは事業者です。
3t未満のクレーンは、設置報告と設置時の荷重試験がある
つり上げ荷重0.5t以上3t未満(スタッカー式は0.5t以上1t未満)のクレーンは、性能検査の対象外ですが、設置しようとするときはあらかじめクレーン設置報告書を所轄労働基準監督署長に提出することとされています(クレーン則11条、安衛令13条3項14号)。設置したときは、定格荷重の1.25倍の荷重による荷重試験と、定格荷重の1.27倍による安定度試験を行うこととされています(同12条・6条3項・4項)。検査証が無いぶん、点検表と台帳が設置からの履歴を示す主な記録になるので、設置時の試験の記録も同じ綴りに入れておくと確実です。
よくある質問
- Q. 天井クレーンとホイストで点検内容は違いますか?
- 基本的な項目は共通です。ただしホイスト式・門型・ジブクレーンなど形式により追加で見る箇所があります。メーカーの取扱説明書の点検項目とあわせて確認してください。
- Q. クレーンの運転に資格は必要ですか?
- つり上げ荷重5t以上はクレーン・デリック運転士免許が必要です(床上操作式クレーンは床上操作式クレーン運転技能講習の修了者でも可)。5t未満は特別教育が必要です(クレーン則21条・22条)。玉掛けは1t以上で技能講習、1t未満で特別教育です。点検とあわせて資格の管理も必要になります。
- Q. 性能検査の対象外(3t未満)でも記録は必要ですか?
- 必要です。つり上げ荷重0.5t以上のクレーンであれば、月例・年次の定期自主検査の結果を記録して3年間保存することが求められます(クレーン則38条)。0.5t未満のクレーンはクレーン等安全規則の適用が除外されています(同2条1号)。
- Q. 検査証を紛失しました
- クレーン検査証を滅失・損傷したときは、再交付申請書を所轄労働基準監督署長に提出して再交付を受けることとされています(クレーン則9条2項)。クレーンを用いて作業を行うときは作業場所に検査証を備え付けておく必要があるため(同16条)、早めに手続きしてください。
- Q. クレーンの点検表の保管期間は何年ですか?
- 月例・年次の定期自主検査と、暴風後・地震後の点検の結果は3年間保存です(クレーン則38条)。作業開始前点検(36条)は保存義務の対象から除かれています。
- Q. クレーンの定期自主検査に資格は必要ですか?
- 法令上の資格要件はありません。クレーンの定期自主検査は特定自主検査(安衛令15条2項)に含まれないためです。ただし年次は荷重試験を含むので、構造と試験の方法を理解した人が行うのが現実的です。
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