ラフテレーンクレーンの点検|車両系建設機械ではありません
ラフテレーンクレーン(ラフター)は建設現場で建機と並んで使われますが、車両系建設機械ではありません。移動式クレーンとして、点検・検査の決まりは労働安全衛生規則の車両系建設機械の節ではなく、クレーン等安全規則に定められています。
この違いは点検表の中身に直結します。年次の検査に荷重試験が必須という点は、車両系建設機械にはない要求です。逆に「特定自主検査」「検査標章」は移動式クレーンには出てきません。代わりに移動式クレーン検査証と性能検査があります。この記事では境界を整理します。
この取り違えは、機械の区分が頭に入っていないと繰り返します。法令の区分で並べた一覧は重機の種類と名前の一覧にあります。
この記事の内容(8項目)
- 適用される規則が違います
- 持込機械等使用届では欄が変わります
- 年次検査には荷重試験が必要です
- 月例4項目と作業開始前
- アウトリガーは条文に明示されていません
- 取り違えが起きやすい場面
- 1. 「特定自主検査」と言ってしまう
- 2. 検査標章を探してしまう
- 3. 0.5トン以上3トン未満の扱い
- 4. 玉掛け用具を同じ点検表に入れる
- ラフテレーンクレーンの点検にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
- ラフテレーンクレーンの点検に出てくる用語
- ラフテレーンクレーンの点検と一緒に押さえておきたいこと
- 運転資格はつり上げ荷重で3段階に分かれる
- アウトリガーは作業の条文で決まっている
- 借りたラフターでも月例と年次の記録を確かめる
- よくある質問
適用される規則が違います
まず何が違うのかを並べます。根拠になる省令から違うので、用語も体系も別です。
| ラフテレーンクレーン (移動式クレーン) | 車両系建設機械 (バックホー等) | |
|---|---|---|
| 根拠 | クレーン等安全規則 | 労働安全衛生規則 |
| 年次 | 一年以内ごとに一回 荷重試験が必須(76条) | 一年以内ごとに一回 9項目(167条) |
| 月例 | 一月以内ごとに一回 4項目(77条) | 一月以内ごとに一回 実質3項目(168条) |
| 作業開始前 | 巻過防止装置、過負荷警報装置その他の警報装置、ブレーキ、クラッチ及びコントローラーの機能(78条) | ブレーキ及びクラッチの機能の2つ(170条) |
| 公的な検査 | 移動式クレーン検査証(有効期間は原則2年、60条)/性能検査(つり上げ荷重3t以上) | 特定自主検査/検査標章 |
| 記録 | どちらも3年保存 | |
移動式クレーン
検査証と性能検査がある。「特定自主検査」「検査標章」という制度は無い
車両系建設機械
検査証は無い。年次が特定自主検査で、事業者が検査標章を貼る
持込機械等使用届では欄が変わります
ラフターは検査証番号と有効期限を書きますが、車両系建設機械には検査証がありません。同じ様式でも、機械によって埋める欄が違います。書き方は持込機械等使用届の書き方で扱っています。
年次検査には荷重試験が必要です
クレーン則76条は、年次の自主検査において荷重試験を行わなければならないと定めています。これが車両系建設機械との最も大きな違いです。
事業者は、前二項の自主検査においては、荷重試験を行わなければならない。ただし、当該自主検査を行う日前二月以内に第八十一条第一項の規定に基づく荷重試験を行つた移動式クレーン又は当該自主検査を行う日後二月以内に移動式クレーン検査証の有効期間が満了する移動式クレーンについては、この限りでない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 荷重試験の方法 | 定格荷重に相当する荷重の荷をつって、つり上げ・旋回・走行等の作動を定格速度により行う(76条4項) |
| 省略できる場合① | 自主検査を行う日前2か月以内に性能検査等の荷重試験を行った場合 |
| 省略できる場合② | 自主検査を行う日後2か月以内に検査証の有効期間が満了する場合 |
荷重試験は場所と荷が要るため、実施には段取りが必要です。性能検査の時期と重ならないように年間のスケジュールを組むと、二重の手間を避けられます。詳しくは検査の年間スケジュールの立て方で扱っています。
月例4項目と作業開始前
クレーン則77条の月例は4項目です。車両系建設機械の月例(実質3項目)とは中身が違います。
| 号 | 検査事項(条文のまま) |
|---|---|
| 一 | 巻過防止装置その他の安全装置、過負荷警報装置その他の警報装置、ブレーキ及びクラッチの異常の有無 |
| 二 | ワイヤロープ及びつりチェーンの損傷の有無 |
| 三 | フック、グラブバケット等のつり具の損傷の有無 |
| 四 | 配線、配電盤及びコントローラーの異常の有無 |
作業開始前の点検(78条)は「巻過防止装置、過負荷警報装置その他の警報装置、ブレーキ、クラッチ及びコントローラーの機能」です。車両系建設機械の2項目に比べて内容が具体的で、安全装置が中心になっています。
アウトリガーは条文に明示されていません
月例・作業開始前の条文にアウトリガーの語はありませんが、実務では張り出し状態・敷板・ジャッキの沈下を必ず確認します。社内項目として欄を設け、法定項目と区別して記録してください。
取り違えが起きやすい場面
1. 「特定自主検査」と言ってしまう
移動式クレーンの年次検査は特定自主検査ではありません。検査業者に依頼する点は似ていますが制度が別です。書類に「特定自主検査」と書くと、車両系建設機械の話と混ざります。
2. 検査標章を探してしまう
移動式クレーンには検査標章の制度がありません。有効性は移動式クレーン検査証で確認します。つり上げ荷重3トン以上のものが対象で、検査証の有効期間は原則2年です(クレーン則60条)。登録性能検査機関の性能検査に合格すると更新され、結果によって2年未満、または2年を超え3年以内の期間で更新されることもあります(同84条)。
3. 0.5トン以上3トン未満の扱い
つり上げ荷重0.5トン以上3トン未満の移動式クレーンには定期自主検査の義務はありますが、検査証と性能検査はありません。「検査証が無いから検査も不要」という誤解が起きやすい範囲です。
4. 玉掛け用具を同じ点検表に入れる
ワイヤロープやスリングなどの玉掛け用具は、クレーン本体とは別の規定です。玉掛け用具に定期自主検査の条文はなく、作業開始前の点検が定められています。混ぜると周期も記録要件も合わなくなります。玉掛け用具の点検と廃棄基準で扱っています。
関連:クレーン点検表の作り方、車両系建設機械の定期自主検査。条文はe-Gov法令検索(クレーン等安全規則)で確認できます。
ラフテレーンクレーンの点検にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
ラフテレーンクレーンの点検の条文(クレーン等安全規則76条〜79条)は、この期間に変わっていません。動きがあったのは、検査を行う機関の側と、機械を貸す・借りるときの決まりです。日付順に並べます。
| 時期 | できごと | 根拠 |
|---|---|---|
| 2025年5月14日 | 改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)が公布。クレーンなどの製造許可の一部(設計審査)や製造時等検査を、民間の登録機関が実施できる範囲が広がる | 改正法の概要 |
| 2026年1月1日 | 登録機関や検査業者の不正への対処・欠格要件が強化され、検査基準を守る義務が課される。移動式クレーンの性能検査を行う登録性能検査機関もこの登録機関に含まれる | 改正法の概要、クレーン則84条 |
| 2026年4月1日 | 改正法の主な部分が施行。注文者や機械等の貸与者が講じる措置の対象が、一人親方などを含む「作業従事者」に広がる。0.5t以上の移動式クレーンは機械等の貸与の対象になる機械 | 改正法の概要、安衛令10条1号 |
| 2026年4月30日 | 天井クレーンの定期自主検査指針(公示第29号)が公表される(適用は2027年4月1日)。対象は天井クレーンで、移動式クレーンの指針の改正はこの時点で確認できなかった | 厚生労働省 |
| 2026年5月27日 | 令和7年の労働災害の確定値が公表。全産業の死亡者は700人で過去最少、建設業は214人、はさまれ・巻き込まれによる死亡は117人 | 厚生労働省 |
ポイントはここです。オペレーター付きでラフターを借りる現場では、2026年4月から、貸す側・借りる側の措置が個人事業者のオペレーターにも及ぶ形になりました。貸与時の点検と書面の交付(安衛則666条)、操作する人の資格の確認と作業内容の通知(同667条)を、点検記録と一緒に残しておくと説明がつきます。
出典:厚生労働省 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の概要、厚生労働省 自主検査指針公示第29号、厚生労働省 令和7年の労働災害発生状況、e-Gov法令検索(クレーン等安全規則)。確認日は2026年10月3日です。個別のクレーンの扱いは所轄の労働基準監督署にご確認ください。
ラフテレーンクレーンの点検に出てくる用語
ラフテレーンクレーンの点検表には、条文の言葉と現場の呼び方が混ざります。条文の言葉を中心に並べます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| ラフテレーンクレーン(ラフター) | 不整地走行に向いた自走式のクレーンの呼び方。法令上の定義はなく、法令上は「移動式クレーン」として扱われる | クレーン等安全規則(移動式クレーンの章) |
| つり上げ荷重 | 構造と材料に応じて負荷させることができる最大の荷重。適用の範囲(0.5t以上)や検査証の要否(3t以上)を分ける数字 | 安衛令10条1号、クレーン則1条4号・2条 |
| 定格荷重 | ジブの傾斜角や長さに応じて負荷できる最大の荷重から、フックなどつり具の重量を引いた荷重。荷重試験はこの荷重で行う | クレーン則1条6号・76条4項 |
| 定期自主検査 | 事業者が自ら行う年次(1年以内ごと)と月例(1月以内ごと)の検査 | クレーン則76条・77条 |
| 作業開始前の点検 | その日の作業を始める前の点検。現場で「日常点検」と呼ばれるもの | クレーン則78条 |
| 荷重試験 | 定格荷重に相当する荷をつって、つり上げ・旋回・走行等を定格速度で行う試験 | クレーン則76条4項 |
| 性能検査 | 検査証の有効期間を更新するための検査。各部の点検に加え荷重試験を行う | クレーン則81条・84条 |
| 移動式クレーン検査証 | つり上げ荷重3t以上の移動式クレーンに交付される検査証。有効期間は原則2年 | 安衛令12条、クレーン則60条 |
| 小型移動式クレーン | つり上げ荷重1t以上5t未満の移動式クレーン。運転は技能講習の修了者でもよい | クレーン則68条 |
| 機械等貸与者 | 移動式クレーンなどを他の事業者に貸す者。貸与前の点検と書面の交付が求められる | 安衛法33条、安衛則666条 |
ラフテレーンクレーンの点検と一緒に押さえておきたいこと
ラフテレーンクレーンの点検表は、運転する人の資格や、据え付けの決まりとつながっています。点検の条文だけを見ていると抜けやすい点を3つ挙げます。
運転資格はつり上げ荷重で3段階に分かれる
つり上げ荷重5t以上は移動式クレーン運転士免許、1t以上5t未満は小型移動式クレーン運転技能講習の修了者でもよく、1t未満は特別教育が必要と定められています(クレーン則67条・68条)。公道を走る運転はこの区分から外され、道路交通法の運転免許の話になります。点検表の表紙に、その機械のつり上げ荷重と必要な資格を書いておくと、オペレーターが替わったときの確認が1回で済みます。
アウトリガーは作業の条文で決まっている
アウトリガーは点検の条文には出てきませんが、作業の条文に決まりがあります。転倒のおそれがある場所では鉄板などを敷いた上に設置すること(クレーン則70条の3)、アウトリガーを鉄板等の上の転倒しない位置に置くこと(70条の4)、原則として最大限に張り出すこと(70条の5)です。日常点検表のアウトリガー欄は、この3つを確かめる欄にしておくと、社内項目と条文が結びつきます。
借りたラフターでも月例と年次の記録を確かめる
リースやオペレーター付きで借りた機械でも、現場で使うときは月例・年次の自主検査がされているかを確かめておくと安心です。貸与者には貸す前の点検と、能力や使用上の注意を書いた書面の交付が求められています(安衛則666条)。その書面と検査証の写しを、現場の点検表と一緒に綴じておくと、持込機械等使用届の確認もそのまま進められます。
よくある質問
- Q. ラフテレーンクレーンは車両系建設機械ですか
- 違います。移動式クレーンとしてクレーン等安全規則が適用されます。車両系建設機械の安衛則167条以下ではなく、クレーン則76条(年次)・77条(月例)・78条(作業開始前)が根拠になります。
- Q. 年次検査に荷重試験は必須ですか
- 必須です(クレーン則76条3項)。定格荷重に相当する荷重の荷をつって、つり上げ・旋回・走行等の作動を定格速度により行います。ただし自主検査を行う日の前2か月以内に性能検査等の荷重試験を行った場合や、後2か月以内に検査証の有効期間が満了する場合は省略できます。
- Q. ラフターに特定自主検査はありますか
- ありません。特定自主検査は車両系建設機械・フォークリフト・高所作業車・不整地運搬車・動力プレスの制度です。移動式クレーンには移動式クレーン検査証と性能検査という別の仕組みがあります。
- Q. 検査標章はどこに貼りますか
- 移動式クレーンには検査標章の制度がありません。有効性は移動式クレーン検査証で確認します。検査標章は車両系建設機械などの特定自主検査の制度です。
- Q. 月例の検査項目は何項目ですか
- 4項目です(クレーン則77条)。巻過防止装置その他の安全装置・過負荷警報装置その他の警報装置・ブレーキ及びクラッチ、ワイヤロープ及びつりチェーンの損傷、フックやグラブバケット等のつり具の損傷、配線・配電盤及びコントローラーの異常です。
- Q. 作業開始前は何を点検しますか
- 巻過防止装置、過負荷警報装置その他の警報装置、ブレーキ、クラッチ及びコントローラーの機能です(クレーン則78条)。車両系建設機械の2項目に比べて安全装置が中心の内容になっています。
- Q. アウトリガーの点検は法定項目ですか
- 月例・作業開始前の条文にアウトリガーの語はありません。実務では張り出し状態、敷板、ジャッキの沈下を必ず確認しますが、社内項目として法定項目と区別して記録してください。
- Q. つり上げ荷重3トン未満でも検査は必要ですか
- 0.5トン以上3トン未満の移動式クレーンには定期自主検査の義務がありますが、検査証と性能検査はありません。「検査証が無いから検査も不要」という誤解が起きやすい範囲なので注意してください。
- Q. 玉掛け用具は同じ点検表に入れてよいですか
- 分けることをおすすめします。玉掛け用具には定期自主検査の条文がなく、作業開始前の点検が定められています。周期も記録の要件も違うため、混ぜると管理が合わなくなります。
- Q. 記録はどれくらい保存しますか
- 3年間です(クレーン則79条)。移動式クレーンの定期自主検査についても記録と保存が求められます。車両系建設機械と保存期間は同じですが、根拠になる条文はクレーン等安全規則側になります。
- Q. 移動式クレーン検査証の有効期間は何年ですか
- 原則2年です(クレーン則60条)。性能検査に合格すると更新され、結果によっては2年未満、または2年を超え3年以内の期間で更新されることがあります(同84条)。つり上げ荷重3t以上の移動式クレーンが対象です。
- Q. ラフターの運転に必要な資格は何ですか
- つり上げ荷重5t以上は移動式クレーン運転士免許、1t以上5t未満は小型移動式クレーン運転技能講習の修了でもよく、1t未満は特別教育が必要です(クレーン則67条・68条)。公道を走らせる運転は別で、道路交通法の運転免許が必要になります。
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