ベルトスリング・ワイヤロープの点検|使用前点検と廃棄基準、使用期限の考え方
玉掛け用具は、切れた瞬間に吊り荷が落ちます。だからクレーン等安全規則は「その日の作業を開始する前に点検すること」と定め、さらに使ってはいけない状態(廃棄基準)を数値で明示しています。
ところが現場では「なんとなく大丈夫そう」で使い続けられ、点検の記録も残っていないことが少なくありません。この記事では、点検すべき箇所と法令上の廃棄基準、判断に迷わないための具体的な見方、そして記録を続けるための台帳の作り方をまとめます。
この記事の内容(6項目)
玉掛け用具の点検義務|「その日の作業開始前」
クレーン等安全規則220条は、玉掛け用具についてその日の作業を開始する前に異常の有無を点検することを事業者に義務付けています。対象はワイヤロープ、つりチェーン、繊維ロープ、繊維ベルト(ベルトスリング)、フック、シャックル、リングなどの金具類です。
(クレーン則220条)
(1よりの間)
(公称径に対して)
伸びの限度
点検で異常を認めたときは、直ちに補修するか使用をやめる必要があります。「今日だけ」「この1回だけ」が事故につながる領域なので、判断は数値で機械的に行うのが正解です。
誰が点検するか
資格要件はありません。実際に玉掛けを行う作業者が、使う前に自分で確認するのが基本です(玉掛け作業自体には、つり上げ荷重1t以上で技能講習、1t未満で特別教育が必要です)。ただし判断がぶれないよう、廃棄基準を書いた紙を用具の保管場所に貼っておくことを強くおすすめします。
ワイヤロープの廃棄基準|4つの数値
ワイヤロープは、次のいずれかに該当したら使用してはいけません(クレーン則215条ほか)。
| 状態 | 使用禁止になる基準 | 現場での見方 |
|---|---|---|
| 素線切れ | 1よりの間で、素線数の10%以上が切断 | 6×24なら1よりに144本 → 15本以上で廃棄。ただし局部に集中しているものは早めに交換 |
| 直径の減少 | 公称径の7%を超えるもの | φ12mmなら11.16mm未満で廃棄。ノギスで外接円を測る |
| キンク | キンクしたもの(全て) | ねじれて折れ曲がった跡。程度によらず廃棄 |
| 形くずれ・腐食 | 著しい形くずれ・腐食があるもの | かご状のふくらみ、素線の飛び出し、赤錆の進行 |
「1より」とはどこのことか
ストランド(子縄)がロープの周りを1周する長さのことです。おおむねロープ直径の6〜7倍が目安で、φ12mmなら約80mmの範囲を見ることになります。この範囲内で素線切れを数えます。
測る道具を用具置き場に置く
直径の減少はノギスがないと判定できません。ノギス1本を玉掛け用具の保管場所に置いておくだけで、点検の質が変わります。公称径ごとの限度値(φ12なら11.16、φ16なら14.88…)を書いた札を一緒に下げておくと、計算不要で判定できます。
ベルトスリング・チェーン・金具の見方
ベルトスリング(繊維ベルト)
使用禁止になるのは、ほつれ・著しい損傷・腐食があるものです。特に見るべき箇所は次の3つです。
- 縫製部|糸が切れていないか。ここが抜けると一気に外れます
- 縁部(みみ)|角当てを使わずに角物を吊ると、ここから切れます
- 使用限界表示|中の色付き糸や芯が露出していたら、その時点で廃棄です
ベルトスリングは表面がきれいでも、紫外線や薬品で強度が落ちます。屋外に出しっぱなしにしないのが寿命を延ばす最大のコツです。
つりチェーン
伸びが製造時の長さの5%を超えるもの、リンクの断面直径の減少が製造時の10%を超えるもの、亀裂があるものは使用禁止です。伸びは新品時の全長を控えておかないと判定できないため、導入時に全長を台帳に記録しておく必要があります。
フック・シャックル・リング
変形しているもの、亀裂があるものは使用禁止です。フックは口の開き(開口部の広がり)を見ます。シャックルはピンのねじ部の変形と、本体の摩耗を確認します。
玉掛け用具 点検台帳(Excel・無料)
用具ごとに規格・使用荷重・購入年月を登録し、素線切れ/径の減少/キンク/腐食/端末金具の状態を点検日ごとに記録できます。判定は「使用可/要注意/使用禁止(廃棄)」から選ぶだけです。
玉掛け用具 点検表を見る記録を続ける仕組み|色別管理と台帳
毎日の使用前点検には記録の保存義務がありません。そのため「やっているが残っていない」状態になりがちです。実務で機能している方法を2つ紹介します。
①月例の色別管理(現場で最も普及している方法)
月ごとに色を決め、点検に合格した用具にその色のテープやタイラップを巻く方法です。
※これ以外は使用禁止
色を見れば「今月点検済みか」が一目で分かるため、現場の判断が速くなります。ただし色を巻いた記録が残らないので、次の台帳と併用します。
②用具ごとの台帳
管理番号を打った用具ごとに、点検日と判定を記録します。台帳があると次の3つができるようになります。
- 廃棄した用具の履歴が残る|「あのスリングいつ捨てたっけ」がなくなる
- 寿命の傾向が見える|「この現場ではベルトが1年半でダメになる」が分かり、購入計画が立つ
- 事故時に説明できる|点検していた事実を書面で示せる
台帳の運用は月1回まとめてで十分です。毎日の点検は色別管理で回し、月例で台帳に記録する——この二段構えが最も続きます。
廃棄するときの注意
判定が「使用禁止」になった用具で、実務上いちばん危険なのは捨てずに置いておくことです。「あとで捨てよう」と用具置き場に戻すと、必ず誰かが使います。
- その場で切断する|ワイヤロープは切る、ベルトスリングはハサミを入れる。使えない状態にしてから廃棄場所へ
- 廃棄日を台帳に記入する|「いつ・なぜ捨てたか」を残す
- 予備を切らさない|代替品がないと「今日だけ」が発生します。よく使うサイズは常に予備を1本持つ
クレーン本体の点検(作業開始前・月例・年次)については特定自主検査と定期自主検査の違いで解説しています。玉掛け用具とクレーン本体は別の点検なので、両方の記録が必要です。用具や機体が増えて期限を追えなくなってきたら、期限管理の記事もあわせてご覧ください。
よくある質問
- Q. 玉掛け用具の点検記録に保存義務はありますか?
- 使用前点検(クレーン則220条)の記録には法令上の保存義務がありません。ただし実施の証明と寿命管理のため、月例で台帳に記録することを強くおすすめします。クレーン本体の定期自主検査(月例・年次)の記録は3年保存が義務です。
- Q. 素線切れが基準未満なら使い続けてよいですか?
- 法令上の使用禁止基準には達していませんが、素線切れは進行します。基準の半分(5%程度)に達した時点で交換の手配を始めるのが実務の安全側の運用です。特に切れが1箇所に集中している場合は早めに交換してください。
- Q. ベルトスリングの寿命は何年ですか?
- 法定の使用期限はありません。使用頻度・角物の吊り・屋外保管の有無で大きく変わり、1年もたない場合もあります。メーカーによっては「使用開始から屋内保管で7年、屋外保管で3年」といった目安を示していることがありますが、これは法令の基準ではなくメーカーの推奨です。手元の製品の取扱説明書を確認したうえで、最終的には外観の基準(縫製部のほつれ・使用限界表示の露出)で判断してください。
- Q. レンタルの玉掛け用具でも点検は必要ですか?
- 必要です。使用前点検はその日に使う事業者の義務です。借りた当日、最初に使う前に必ず確認してください。異常があればそのまま返却し、レンタル会社に連絡します。
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本記事は一般的な情報の整理であり、法令への適合を保証するものではありません。個別の義務内容は所管行政庁または専門家にご確認ください。記事の内容は2026-08-20時点の情報です。