足場の点検|作業開始前・組立後・悪天候後の3つのタイミング
建設業では、今も年間100人程度の労働者が墜落・転落災害で亡くなっているとされています(厚生労働省 基発0314第2号)。そのため労働安全衛生規則は、足場について3つの異なるタイミングでの点検を義務付けています。
さらに2023年10月1日の改正で、毎日の点検も含めて点検者をあらかじめ指名することと、組立て等の後の点検で点検者の氏名を記録することが義務になりました。2024年4月1日には一側足場の使用範囲も明確になっています。この記事で3つのタイミングと、改正で変わった点を整理します。
同じ仮設物でも、型枠支保工は見るタイミングの決まり方が違います。打設の日の朝に何を見るかは型枠支保工の点検にまとめました。
この記事の内容(10項目)
3つのタイミング
| タイミング | いつ・何を | 記録 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 作業開始前点検 | その日の作業を開始する前。点検者を指名し、作業を行う箇所の足場用墜落防止設備(手すり等)の取り外し・脱落の有無を見る | 保存義務なし | 安衛則567条1項 |
| 組立・変更後の点検 | 組立て・一部解体・変更の後、作業を開始する前。点検者を指名し、9項目を見る | 結果・点検者の氏名・措置を記録し、足場を使用する作業を行う仕事が終了するまで保存 | 安衛則567条2項・3項 |
| 悪天候後の点検 | 強風・大雨・大雪等の悪天候、中震以上の地震の後、作業を開始する前 | 同上 | 安衛則567条2項・3項 |
あらかじめ指名
義務
「悪天候後」の判断には、強風(10分間の平均風速10m/s以上)、大雨(1回の降雨量50mm以上)、大雪(1回の降雪量25cm以上)、中震以上の地震(震度4以上)が目安として示されています。台風や地震の後は、作業を始める前に点検しておくと確実です。
つり足場は扱いが別で、毎日の作業開始前に、567条2項の項目のうち第1〜5号・第7号・第9号を点検します(安衛則568条)。
2023〜2024年の改正で変わったこと
改正前
点検の義務はあったが、誰が点検するかの定めがなく、記録に点検者名を残す義務もなかった。改正後(2023年10月1日)
①点検者をあらかじめ指名する(毎日の点検・つり足場・注文者の点検も)②組立て等の後の点検記録に点検者の氏名を記載する
この2つが義務に。
「誰でもいいから見た」を防ぐための改正です。施行通達では、組立て等の後の点検者には足場の組立て等作業主任者で、能力向上教育を受講した者など、一定の能力を持つ人を指名することが望ましいとされています。指名は書面のほか、朝礼での口頭、メールや電話、あらかじめ決めた順番を伝える方法でもよいとされています(基発0314第2号)。
あわせて、2024年4月1日からは一側足場の使用範囲が明確になりました。幅が1m以上の箇所では、原則として本足場を使用します(安衛則561条の2)。狭い場所での足場計画に影響するため、計画の段階で確認しておくと安心です。
点検項目|7領域
加えて⑥昇降設備・通路(階段の固定、昇降口の手すり)、⑦飛来落下防止(メッシュシート、朝顔)を確認します。①〜⑤は567条2項の9項目(床材、緊結部、緊結金具、足場用墜落防止設備、幅木等、脚部、壁つなぎ等の補強材、建地・布・腕木、つり足場の突りょう等)にあたり、⑥⑦は現場で足しておくと安心な項目です。
特に見落とされやすい3つ
- 壁つなぎの欠落|作業の都合で外され、戻されないまま。足場全体の倒壊に直結します
- 床材の跳ね上がり|固定が甘いと、端を踏んだときに跳ね上がって転落します
- 最大積載荷重の周知|事業者は最大積載荷重を定めて労働者に周知し(安衛則562条)、注文者は足場の見やすい場所に表示します(655条1項1号)。資材の積みすぎを防ぐ手がかりになります
足場 点検チェックリスト(Excel・無料)
作業開始前・組立後・悪天候後の3区分に対応し、7領域の項目を確認できます。点検者の氏名を記録する欄があり、2023年の改正に対応した様式です。
足場点検チェックリストを見る注文者にも点検義務がある
請負人に係る作業従事者に足場を使用させる注文者にも点検義務があります(安衛則655条)。元請けが足場を組んで協力会社に使わせる場合、元請け側にも義務が生じるということです。
- 注文者|作業床の最大積載荷重を定めて表示し、悪天候・中震以上の地震・組立て等の後に、点検者を指名して作業開始前に点検(655条1項)。記録は仕事が終了するまで保存(同条2項)
- 使用する事業者|作業開始前、組立て・変更後、悪天候後に点検(567条)
実務では両者の点検が重なりますが、それぞれの責任で実施し記録する形にしておくと説明がつきます。「元請けが見ているから」で済ませず、自社の記録も残しておきましょう。
記録の保存期間
組立後・悪天候後の点検記録は、足場を使用する作業を行う仕事が終了するまで保存します(567条3項)。年数で決まっているわけではないので、工期が長い現場では1年以上になることもあります。現場事務所で保管し、仕事が終わるまで捨てないようにしてください。
朝のルーティンに組み込む
作業開始前点検は毎日必要ですが、単独のタスクにすると忘れます。KY活動と一緒に朝のルーティンにするのが定着させるコツです。点検者の指名も、朝礼で口頭で伝える形でよいとされています。
- 健康確認・アルコールチェック
- その日の点検者の指名
- 足場の作業開始前点検(手すり等が外れていないか、昨日と変わっていないか)
- 使用する機械の始業前点検
- KY活動(KY活動の書き方)
- 指差呼称・作業開始
足場の異常は前日との違いとして現れることが多いため、毎日同じ目で見ることに意味があります。「昨日はなかった隙間がある」「壁つなぎが1本ない」。こうした変化は、日々見ている人ほど気づけます。
墜落制止用器具(フルハーネス)の点検もセットで必要です。器具の交換時期は保護具の点検と交換時期をご覧ください。
足場の種類ごとに、見るところが変わる
ここまでは足場に共通する話です。実際の点検表は、足場の種類ごとに分けたほうが短くなります。1枚で全種類に対応させると、使わない項目をとばす習慣がついて、使う項目まで飛ばされます。
| 種類 | その足場に固有の見どころ | 個別の記事 |
|---|---|---|
| くさび緊結式(ビケ) | くさびの打込み不足、抜け止めピン、異なる緊結方式の混用 | くさび緊結式足場の点検 |
| 移動式足場(ローリングタワー) | 高さと脚輪間隔の関係、脚輪のブレーキ、移動のときの手順 | ローリングタワーの点検 |
| わく組(枠組) | 壁つなぎ 垂直9m・水平8m以下(高さ5m以上のもの)、最上層および5層以内ごとの水平材、高さ20m超は主わく2m以下 | わく組足場の点検 |
| 単管 | 建地の間隔(けた行1.85m以下・はり間1.5m以下)、建地間の積載荷重400kg限度、壁つなぎ 垂直5m・水平5.5m以下 | 単管足場の点検 |
くさび緊結式は、壁つなぎの間隔が条文の表に載っていません。安衛則570条1項5号の表にあるのは単管足場とわく組足場だけなので、製品の取扱説明書と組立図に従います。単管足場の数値(570条・571条)をそのまま当てはめないようにしてください。
移動式足場は、同じ「足場」でも見るところがまったく違います。転倒に直結する高さと脚輪間隔の関係が中心になるので、こちらは別の紙にしてください。数値の出典も安衛則ではなく「移動式足場の安全基準に関する技術上の指針」です。
足場の点検にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
足場の点検の決まりは、2023年から2026年にかけて段階的に変わっています。日付順に並べます。
| 時期 | できごと | 根拠 |
|---|---|---|
| 2023年3月14日 | 足場からの墜落防止措置を強化する改正省令(令和5年厚生労働省令第22号)が公布。施行通達と「足場からの墜落・転落災害防止総合対策推進要綱」が出る | 基発0314第2号・基安発0314第2号 |
| 2023年10月1日 | 事業者・注文者が足場(つり足場を含む)を点検するときの点検者の指名と、組立て等の後の点検記録への点検者の氏名の記載が義務になる | 安衛則567条・568条・655条 |
| 2024年4月1日 | 幅1m以上の箇所では原則として本足場を使用する(一側足場の使用範囲の明確化) | 安衛則561条の2 |
| 2025年5月14日 | 改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)が公布 | 厚生労働省 |
| 2026年4月1日 | 注文者や元方事業者が講じる措置の対象が、一人親方などを含む「作業従事者」に広がる。足場を使わせる注文者の措置も「請負人に係る作業従事者」が対象 | 改正安衛法/安衛則655条 |
| 2026年5月27日 | 令和7年の労働災害の確定値が公表。死亡者は全産業で700人(過去最少)、うち建設業214人。全産業の墜落・転落による死亡は186人 | 厚生労働省 |
ポイントはここです。2026年4月からは、足場を使う一人親方も注文者の点検の対象に入ります。協力会社の職人さんだけでなく、個人で入っている人が使う足場も、同じ点検と記録の流れに乗せておくと漏れがありません。
出典:厚生労働省 改正労働安全衛生規則(足場)リーフレット、厚生労働省 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の概要、厚生労働省 令和7年の労働災害発生状況、e-Gov法令検索(労働安全衛生規則)。確認日は2026年10月3日です。個別の扱いは所轄の労働基準監督署にご確認ください。
足場の点検に出てくる用語
足場の点検の条文には、ふだんの現場の呼び方と少し違う言葉が出てきます。点検表の項目名をそろえるときの参考にしてください。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 点検者 | 事業者・注文者が指名して足場を点検させる者。資格の要件は条文にない。作業主任者で能力向上教育を受けた者などが望ましいとされる | 安衛則567条・基発0314第2号 |
| 足場用墜落防止設備 | 手すり・中さんなど、足場からの墜落を防ぐ設備。毎日の点検の対象 | 安衛則567条1項・563条 |
| 本足場 | 建地を2本(内側と外側)設ける足場。幅1m以上の箇所では原則これを使う | 安衛則561条の2 |
| 一側足場 | 建地が1本の足場。法令上の定義はなく、本足場と対で使われる言葉 | 安衛則570条1項5号 |
| 壁つなぎ | 足場を建物に固定し、倒壊を防ぐ部材。間隔は単管・わく組で定められている | 安衛則570条1項5号 |
| 最大積載荷重 | 作業床に載せてよい重さの上限。事業者が定めて周知し、注文者は表示する | 安衛則562条・655条 |
| 中震以上の地震 | 法令上の定義はない。震度4以上が目安として示されている | 安衛則567条2項 |
| 作業従事者 | 労働者に加え、一人親方などの個人事業者も含めた言い方 | 改正安衛法(2026年4月施行) |
足場の点検と一緒に押さえておきたいこと
足場の点検は、チェックリストを埋めるだけでなく、誰がいつ見たかを後から示せることが大切です。上位の解説ではあまり触れられていない点を3つ挙げます。
毎日の点検にも指名が要る
2023年10月の改正で、点検者の指名は組立て等の後だけでなく、毎日の作業開始前の点検(567条1項)にも必要になりました。毎日の点検は記録の保存義務こそありませんが、誰を指名したかを朝礼記録やKYシートに一行残しておくと、指名した事実を後から示せます。
保存は「年数」ではなく「仕事が終わるまで」
組立て等の後の点検記録は、足場を使用する作業を行う仕事が終了するまで保存します(567条3項・655条2項)。「3年」などの年数の決まりではありません。足場を解体しても、その仕事が続いている間は捨てずに残しておくのが条文どおりの扱いです。
指名の方法は口頭でもよいが、伝わったことが分かる形に
施行通達は、指名の方法として書面のほか、朝礼での口頭、メール、電話、あらかじめ決めた順番を伝える方法を挙げています。そのうえで、点検者自らが点検者であると認識して責任を持って点検できる方法で行うこととされています(基発0314第2号)。点検表の点検者欄に、本人が自分で名前を書く形にしておくと、この趣旨に沿います。
よくある質問
- Q. 点検者に資格は必要ですか?
- 法令上、点検者の資格要件は明示されていませんが、点検者を指名する必要があります。施行通達(基発0314第2号)では、足場の組立て等作業主任者で能力向上教育を受講した者など、一定の能力を持つ人を指名することが望ましいとされています。
- Q. 作業開始前点検も記録が必要ですか?
- 作業開始前点検(567条1項)には記録の保存義務がありません。ただし2023年10月から、この点検も点検者を指名して行う必要があります。記録義務があるのは組立後・悪天候後の点検(567条3項)です。実施と指名を示せるよう、記録しておくと安心です。
- Q. 点検記録はいつまで保存しますか?
- 組立て等の後や悪天候後の点検記録は、足場を使用する作業を行う仕事が終了するまで保存します(安衛則567条3項)。3年などの年数ではありません。注文者の記録も同じです(655条2項)。
- Q. どの程度の風なら「強風」ですか?
- 10分間の平均風速が10m/s以上が目安として示されています。気象庁の観測値や、現場の風速計で判断してください。判断に迷う場合は点検するほうが安全です。
- Q. 足場の点検と、つり足場の点検は違いますか?
- つり足場については安衛則568条に別途の規定があります。つり足場は毎日の作業開始前に、点検者を指名して、567条2項の項目のうち第1〜5号・第7号・第9号(つり装置の歯止めの機能など)を点検します。
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