重機の積み込み・積み降ろし|道板を使うときの3つの条件
建設機械の事故のうち、作業中ではなく積み降ろしの最中に起きるものが一定数あります。道板から機械が滑り落ちる、機体が横転する、といった型です。
この場面には専用の条文があります。労働安全衛生規則161条で、道板や盛土を使うときの条件が3つ定められています。点検表にも作業計画書にも入らない領域なので、独立して押さえておく価値があります。
この記事の内容(8項目)
- 条文が適用される場面
- 吊って積むなら別の条文です
- 条文の3つの条件
- 「十分な」「適当な」は数値で決まっていません
- 強度は「機体重量」で見る
- 積み降ろしの前後に効く条文
- よく聞く事故の型
- チェック表に落とすときの注意
- 1. 点検表と混ぜない
- 2. 記録の保存義務はありません
- 3. 道板の仕様を控えておく
- 4. 誘導者と合図をセットにする
- 建設機械の移送(重機の積み込み)にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
- 建設機械の移送(重機の積み込み)に出てくる用語
- 建設機械の移送(重機の積み込み)と一緒に押さえておきたいこと
- 道板(ブリッジ)は「爪と受け金具」で外れを止める
- トラック側は駐車ブレーキと歯止め
- 道板を登らせる運転にも資格の区分がある
- 積んだあとの固定は道路交通法の話になる
- よくある質問
条文が適用される場面
161条は、どんな移送にもかかるわけではありません。適用の条件が本文に書かれています。
事業者は、車両系建設機械を移送するため自走又はけん引により貨物自動車に積卸しを行う場合において、道板、盛土等を使用するときは、当該車両系建設機械の転倒、転落等による危険を防止するため、次に定めるところによらなければならない。
| 場面 | 161条の適用 |
|---|---|
| 自走で道板を登って積む | 適用される |
| ウインチでけん引して道板から積む | 適用される |
| 盛土や仮設台を使って積む | 適用される |
| クレーンで吊って積む | 161条ではない(クレーン等安全規則・玉掛けの系統) |
| 荷台が地面まで下がる車両(セルフローダー等)で、道板を使わない | 道板・盛土等を使わないので、161条の文言からは外れると読めます。荷台の傾斜を登る危険は同じなので、同じ確認をしておくと安心です |
吊って積むなら別の条文です
161条は「道板、盛土等を使用するとき」の規定です。クレーンで吊り上げて積む場合は玉掛けとクレーンの規定に移ります。ワイヤロープの選定や合図はそちらの話になるので、混ぜないでください。玉掛け用具は玉掛け用具の点検と廃棄基準で扱っています。
条文の3つの条件
161条が定める3号は、そのまま作業前のチェック項目になります。
| 号 | 条文のまま | 現場で確認すること |
|---|---|---|
| 一 | 積卸しは、平たんで堅固な場所において行なうこと。 | 路肩・路側帯・軟弱地盤・傾斜のある場所を避ける。雨天後の地盤沈下 |
| 二 | 道板を使用するときは、十分な長さ、幅及び強度を有する道板を用い、適当なこう配で確実に取り付けること。 | 道板の定格荷重と機体重量、幅と履帯・タイヤ幅、勾配、荷台への掛かり代、固定 |
| 三 | 盛土、仮設台等を使用するときは、十分な幅及び強度並びに適度な勾配を確保すること。 | 盛土の締固め、縁の崩れ、仮設台の支持力 |
「十分な」「適当な」は数値で決まっていません
条文は具体的な数値を示していません。判断の拠り所は道板メーカーが示す定格荷重・適合機種・推奨勾配になります。勾配については、島根労働局浜田労働基準監督署のリーフレット(令和7年6月)が「登坂角度は15度以下が望ましい」としています。社内基準を作るなら、使用する道板の仕様書から数値を引いて明文化してください。
強度は「機体重量」で見る
道板の定格荷重は機体重量に対して決まります。アタッチメントを替えていれば重量が変わります。カタログの標準機体重量ではなく、実機の構成で確認してください。
積み降ろしの前後に効く条文
161条だけでは足りません。前後の条文が実際の事故に直結します。
| 条文 | 内容 | 積み降ろしでの意味 |
|---|---|---|
| 160条 運転位置から離れる場合 | ①バケット、ジッパー等の作業装置を地上に下ろす ②原動機を止め、走行ブレーキをかける等の逸走を防止する措置 | 積んだ後に運転者が降りるとき。ブームを上げたまま離れない |
| 162条 搭乗の制限 | 作業に従事する作業従事者を乗車席以外の箇所に乗せてはならない | 誘導のために履帯やステップに人を乗せない |
| 163条 使用の制限 | 構造上定められた安定度、最大使用荷重等を守る | 登坂時の姿勢。アームを伸ばしたまま登らない |
| 157条2項 誘導者 | 路肩・傾斜地等での作業で、転倒・転落により危険が生ずるおそれがあるときは誘導者を配置 | 道板上は視界が悪い。誘導者と合図(159条)をセットで |
よく聞く事故の型
実務で聞く事故の型は、おおむね次の場面に集中します。
- 道板の踏み外し|幅が足りない、または斜めに乗り上げた
- 道板の跳ね上がり|荷台への掛かり代が浅く、途中で外れた
- 登坂中の後方転倒|アームやブレードの姿勢が悪く重心が後ろに寄った
- 地盤の沈下|トレーラの片側が軟弱地盤に沈み、道板が傾いた
- 降ろすときの急加速|下り勾配で速度が出た
いずれも161条の3号(平坦で堅固/道板の条件/盛土等の条件)と163条(安定度)に対応しています。条文が想定している危険と、実際の事故の型が一致している領域です。
チェック表に落とすときの注意
1. 点検表と混ぜない
161条は「移送のときに講じる措置」であって、機械の状態を見る検査ではありません。定期自主検査の記録(3年保存)とは別です。同じ欄に並べると、どこまでを3年残すのかが分からなくなります。配布しているExcel様式でも、作業前チェックは別シートにしてあります。
2. 記録の保存義務はありません
161条に記録・保存の定めはありません。ただし実施の証跡が無いのは別のリスクなので、移送のたびに1行残す運用にしておくと、事故が起きたときに説明できます。
3. 道板の仕様を控えておく
「十分な長さ、幅及び強度」の判断根拠は道板の仕様です。定格荷重・幅・長さ・適合勾配を台帳に控えておくと、機械を替えたときに毎回調べ直さずに済みます。道板そのものは点検対象の機械ではありませんが、変形・亀裂・滑り止めの摩耗は見ておく価値があります。
4. 誘導者と合図をセットにする
道板上は運転席から足元が見えません。誘導者を置くなら合図の方法を決めて誘導者に行わせる(159条)ところまでが条文の要求です。詳しくは誘導者・立入禁止・合図で扱っています。
関連:車両系建設機械の作業計画書、主たる用途以外の使用。条文はe-Gov法令検索(労働安全衛生規則)で確認できます。
建設機械の移送(重機の積み込み)にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
建設機械の移送そのものを定めた161条の文言は変わっていません。変わったのは、積み降ろしの周りにいる人の扱いと、移送する機械の検査の基準です。日付順に並べます。
| 日付 | できごと | 根拠 |
|---|---|---|
| 2025年4月1日 | 改正労働安全衛生規則が施行。立入禁止(158条)や搭乗の制限(162条)などの対象が、一人親方や他社の作業員などを含む「作業に従事する者」に広がった。道板のまわりに立ち入る人、履帯に乗ろうとする人は、雇用関係を問わず対象になる | 令和6年4月30日公布の改正省令(厚生労働省リーフレット) |
| 2025年6月 | 島根労働局浜田労働基準監督署が、トラックからドラグショベルを積み降ろす作業中に道板が外れて機械が落下し、運転手が負傷した重大災害を受けて、点検項目のリーフレットを作成 | 浜田労働基準監督署(令和7年6月作成) |
| 2026年1月1日 | 車両系建設機械の特定自主検査基準の適用が始まり、旧来の定期自主検査指針は廃止 | 令和7年厚生労働省告示第320号、基発1226第2号 |
| 2026年4月1日 | 改正労働安全衛生法の主な部分が施行。注文者・元方事業者・機械の貸与者などが講じる措置の対象が作業従事者に広がった。レンタルの重機を回送してもらう場面にもかかわる | 令和7年法律第33号 |
| 2026年5月27日 | 令和7年の労働災害の確定値を公表。全産業の死亡者は700人で過去最少、うち建設業は214人 | 厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」 |
2025年4月の改正で効いてくるのは、「自社の作業員ではないから」は立入禁止や搭乗禁止の外に置く理由にならない点です。回送のドライバーや、別の会社の誘導員が道板の近くにいる場面を思い浮かべて、立ち位置を決めておくとよいでしょう。
出典:厚生労働省「建設業の一人親方等に仕事を発注する事業者のみなさまへ」、島根労働局「重機の積込み・積みおろしの際の安全対策を講じていますか?」、厚生労働省「特定自主検査基準等の制定等について」、厚生労働省「改正法の概要」、厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」
確認日は2026年10月3日です。現場ごとの扱いは、所轄の労働基準監督署で確かめてください。
建設機械の移送(重機の積み込み)に出てくる用語
建設機械の移送と積み込みの言葉は、条文の言い方と現場の呼び方がずれていることがあります。法令上の定義があるものと、ないものを分けました。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 車両系建設機械 | 令別表第七に掲げる建設機械で、動力を用い、かつ、不特定の場所に自走できるもの | 労働安全衛生法施行令別表第七、登録省令19条の22第3項 |
| 移送 | 161条の見出しの言葉。現場では「回送」「運搬」とも言う。法令上の定義はない | 安衛則161条 |
| 積卸し | 貨物自動車に機械を積むこと・降ろすこと。法令上の定義はない | 安衛則161条 |
| 道板 | 荷台と地面のあいだに掛ける板。製品名では「ブリッジ」「アルミブリッジ」「スロープ」とも呼ばれる。法令上の定義はない | 安衛則161条2号 |
| 盛土・仮設台 | 道板の代わりに荷台の高さまで土や台を築いたもの。法令上の定義はない | 安衛則161条3号 |
| 誘導者 | 機械を誘導する者。置くときは一定の合図を定めて行わせる。法令上の定義はない | 安衛則157条2項・158条・159条 |
| 作業従事者 | その作業場で作業に従事する者。労働者に限らず、一人親方や他社の作業員も含む | 安衛則158条・162条(2025年4月1日施行の改正) |
| 乗車席 | 運転者などが乗るための席。これ以外の箇所に作業従事者を乗せてはならない。法令上の定義はない | 安衛則162条 |
社内の手順書では、「道板(ブリッジ)」のように条文の言葉と現場の呼び方を並べて書くと、点検表と条文を突き合わせるときに迷いません。
建設機械の移送(重機の積み込み)と一緒に押さえておきたいこと
建設機械の移送では161条の3つの号が中心ですが、実際の事故を見ると、条文の外側にある確認が効いてきます。
道板(ブリッジ)は「爪と受け金具」で外れを止める
浜田労働基準監督署のリーフレットは、荷台から外れないように爪付きの道板を使うこと、トラック等の荷台に道板の爪にあった受け金具(フック)を備えること、道板の間隔をクローラまたはタイヤの中心に合わせることを、点検項目に挙げています。161条2号の「確実に取り付けること」を、現場で確かめられる形に言い換えたものと考えると使いやすくなります。
トラック側は駐車ブレーキと歯止め
同じリーフレットは、トラック等の駐車ブレーキを掛け、タイヤに歯止めをしているかも確認項目にしています。機械が登る途中で荷台側が動くと、道板の掛かり代が一気に浅くなります。点検表では、機械の確認とトラックの確認を別の行にしておくと抜けにくくなります。
道板を登らせる運転にも資格の区分がある
ドラグショベルなどの運転の業務は、機体重量3トン以上なら技能講習(労働安全衛生法施行令20条12号)、3トン未満なら特別教育(安衛則36条9号)の対象とされています。どちらも「道路上を走行させる運転を除く」と書かれているので、積み降ろしの運転はこの資格を持つ人が行う前提で段取りを組むと安全です。資格の区分は重機オペレーターの資格にまとめています。
積んだあとの固定は道路交通法の話になる
荷台に載せたあとの固定は、安衛則ではなく道路交通法の領域です。運転者には、貨物の積載を確実に行うなど、積載している物の転落や飛散を防ぐ措置が求められています(道路交通法71条4号)。161条のチェックと、走り出す前の固縛の確認は、担当者が違うことが多いので、引き継ぎの欄を1つ設けておくと確実です。
よくある質問
- Q. 重機の積み降ろしに条文はありますか
- あります。労働安全衛生規則161条が、車両系建設機械を移送するため自走またはけん引により貨物自動車に積卸しを行う場合で、道板や盛土等を使用するときの措置を3つ定めています。
- Q. 道板を使うときの条件は何ですか
- 十分な長さ、幅及び強度を有する道板を用い、適当なこう配で確実に取り付けることです(安衛則161条第二号)。あわせて第一号により、積卸しは平坦で堅固な場所で行う必要があります。
- Q. 道板の長さや勾配に数値の基準はありますか
- 条文には数値がありません。「十分な」「適当な」としか書かれていないため、判断の拠り所は道板メーカーが示す定格荷重・適合機種・推奨勾配になります。勾配は、島根労働局浜田労働基準監督署のリーフレット(令和7年6月)が「登坂角度は15度以下が望ましい」としています。社内基準を作る場合は道板の仕様書から数値を引いて明文化してください。
- Q. 道板が外れないようにするにはどうすればよいですか
- 島根労働局浜田労働基準監督署のリーフレットは、爪付きの道板を使い、荷台に道板の爪にあった受け金具(フック)を備えること、トラックの駐車ブレーキを掛けてタイヤに歯止めをすることを点検項目に挙げています。安衛則161条2号の「確実に取り付けること」を具体的にしたものと考えると使いやすくなります。
- Q. 一人親方や回送のドライバーも立入禁止の対象ですか
- 対象です。2025年4月1日施行の改正安衛則で、立入禁止(158条)や搭乗の制限(162条)などの対象が、労働者に限らずその場所で作業に従事する者に広がりました。雇用関係を問わず、道板のまわりへの立入りや乗車席以外への搭乗を禁止します。
- Q. クレーンで吊って積む場合も161条ですか
- 違います。161条は「道板、盛土等を使用するとき」の規定です。クレーンで吊り上げて積む場合は、クレーン等安全規則と玉掛けの規定に移ります。ワイヤロープの選定や合図もそちらの系統になります。
- Q. 盛土を使う場合の条件は何ですか
- 十分な幅及び強度並びに適度な勾配を確保することです(安衛則161条第三号)。仮設台等を使う場合も同じ号が適用されます。
- Q. 積んだ後に運転者が降りるときの注意は何ですか
- 安衛則160条により、バケット・ジッパー等の作業装置を地上に下ろし、原動機を止めて走行ブレーキをかける等の逸走を防止する措置を講じる必要があります。ブームを上げたまま運転位置を離れないでください。
- Q. 誘導のために履帯に人を乗せてもよいですか
- いけません。安衛則162条により、作業に従事する作業従事者を乗車席以外の箇所に乗せてはならないとされています。誘導は機外から行ってください。
- Q. 道板上で誘導者を置くときに必要なことはありますか
- 安衛則159条により、誘導者を置くときは一定の合図を定め、誘導者にその合図を行わせなければなりません。誘導者を立てるだけでは条文上不十分です。
- Q. 積み降ろしの記録は残す必要がありますか
- 161条に記録・保存の定めはありません。ただし実施の証跡がないのはリスクなので、移送のたびに1行残す運用にしておくと、事故が起きたときに説明できます。定期自主検査の記録(3年保存)とは別扱いです。
- Q. アタッチメントを替えると道板の選び方は変わりますか
- 変わります。道板の定格荷重は機体重量に対して決まるため、アタッチメントの変更で重量が変われば適合する道板も変わります。カタログの標準機体重量ではなく、実機の構成で確認してください。
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