特定自主検査を受けていないとどうなるか|罰則の条文と、実際に起きること
「特定自主検査をやっていないと50万円以下の罰金」という記述はよく見かけますが、どの条文の話なのかまで書かれていることは多くありません。労働安全衛生法の罰則は違反した条文ごとに軽重が分かれていて、同じ「検査まわり」でも重さが違います。
この記事では条文を示して整理します。あわせて、実務でまず起きるのは罰則ではなく是正勧告であることと、記録が無い状態で臨検を受けたときに何ができるかを扱います。
この記事の内容(5項目)
罰則は条文ごとに分かれています
定期自主検査の義務は労働安全衛生法45条です。この違反は同法120条にあたります。
| 違反する条文 | 内容 | 罰則 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 安衛法45条1項 | 定期自主検査を行わない/結果を記録しない | 50万円以下の罰金 | 安衛法120条1号 |
| 安衛法45条2項 | 特定自主検査を有資格者・検査業者以外に行わせた | 50万円以下の罰金 | 安衛法120条1号 |
| 安衛法33条1項 | 機械等貸与者が貸与時の措置を講じない | 6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 安衛法119条1号 |
| 安衛法33条2項 | 貸与を受けた者が必要な措置を講じない | 6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 安衛法119条1号 |
| 安衛法61条1項 | 就業制限のある業務を無資格者にさせた | 6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 安衛法119条1号 |
45条(定期自主検査)
120条 →50万円以下の罰金拘禁刑の定めなし
33条(貸与)・61条(資格)
119条 →6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金身体刑がある
会社にも罰金がかかります(両罰規定)
安衛法122条は、法人の代表者や従業者が業務に関して違反行為をしたとき、行為者を罰するほか、その法人に対しても各本条の罰金刑を科すると定めています。担当者個人だけの問題では終わりません。
2026年1月からは「基準に従って」も義務です
2026年1月1日から、特定自主検査は厚生労働大臣の定める基準に従って行わなければならないことになりました(安衛法45条3項)。実施していても基準に従っていなければ問題になり得ます。詳しくは特定自主検査の新基準で扱っています。
実際にまず起きるのは是正勧告
臨検監督で不備が見つかった場合、いきなり罰則が科されるわけではありません。実務上は是正勧告書が交付され、期限までに改善して報告するという流れが一般的です。
ここで効いてくるのが記録があるかどうかです。検査を実施していても記録が無ければ、実施した事実を示せません。逆に、不備があっても記録が残っていれば「いつから、どの機械が、どういう状態か」を説明でき、是正の計画も立てられます。
使用停止等の命令が出ることもあります
危険な状態が確認された場合、機械の使用停止等の命令が出されることがあります。現場が止まるという意味では、罰金より事業への影響が大きい場面です。
※ 是正勧告や司法処分の運用は、違反の内容・程度や事業場の状況をふまえた監督署の判断によります。個別の取扱いは所轄の労働基準監督署にご確認ください。
記録が無いことに気づいたら
過去の記録が無い、あるいは何年も年次を実施していなかった、という状態が見つかることがあります。取れる手は順番があります。
| 順番 | やること | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 現在の状態を確認する(年次の実施) | 過去は戻せない。まず今の機械が安全かを確定させる |
| 2 | 全保有機械の棚卸しと期限の洗い出し | どれが何年抜けているかを把握しないと計画が立たない |
| 3 | 優先順位を決めて年次を順次実施 | 稼働が多い機械・危険が大きい機械から |
| 4 | 月例と作業開始前の運用を先に立て直す | 年次は外注待ちになるが、月例は今日から始められる |
| 5 | 台帳で期限を管理する形にする | 同じことを繰り返さないため |
記録を遡って作らない
やっていない検査の記録を後から作ることは、記録の信頼性を根本から壊します。実施していない期間は実施していないものとして扱い、これからの計画を示すほうが、結果的に説明が通ります。
抜けを繰り返さない仕組み
1. 期限を機械ごとに持つ
年次は1年に1回しか来ないので、担当者が替わると引き継がれずに飛びます。人ではなく台帳に期限を持たせるのが基本です。前回実施日と周期から次回期限を計算する形にしてください。
2. 月例は「動かした月」で判断しない
使用しない期間の除外規定はありますが、少しでも使っているなら周期は進みます。「今月あまり動かしていないから」で飛ばすと欠測になります。
3. レンタル機の期限も見る
借用機は自社の台帳に載らないため、期限が誰にも見えていないことがあります。レンタル建機の点検義務は誰が負うかで扱っているとおり、使用している事業者に義務がかかります。
4. 記録の保存年数を機械ごとに揃える
定期自主検査の記録は3年ですが、足場の点検記録は「仕事が終了するまでの間」など、対象によって考え方が違います。まとめて3年で運用すると、足場側は過剰、他は問題なしという形になります。保存の基準を書いておいてください。
関連:建機の点検記録3年保存、建機の点検期限を1枚で管理する。条文はe-Gov法令検索(労働安全衛生法)で確認できます。
よくある質問
- Q. 特定自主検査を実施しないと罰則はありますか
- あります。定期自主検査の義務を定めた労働安全衛生法45条1項・2項に違反した場合、同法120条1号により50万円以下の罰金です。拘禁刑の定めはこの条文にはありません。
- Q. 記録を残していない場合も罰則の対象ですか
- 対象になり得ます。45条1項は「定期に自主検査を行ない、及びその結果を記録しておかなければならない」と定めており、記録も義務の一部です。
- Q. 無資格者に特定自主検査をさせた場合はどうなりますか
- 安衛法45条2項の違反として、120条1号により50万円以下の罰金の対象になります。特定自主検査は登録検査業者または所定の資格を有する事業内検査者しか実施できません。
- Q. 無資格者に運転させた場合はもっと重いですか
- 重い扱いです。就業制限を定めた安衛法61条1項の違反は同法119条1号にあたり、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。検査の未実施より、無資格運転のほうが重く位置づけられています。
- Q. 罰則は担当者個人にかかりますか、会社にかかりますか
- 両方の可能性があります。安衛法122条の両罰規定により、違反行為をした者を罰するほか、その法人に対しても各本条の罰金刑が科されます。
- Q. 実際にはいきなり罰金になりますか
- 実務上は、臨検監督で不備が見つかった場合にまず是正勧告書が交付され、期限までに改善して報告する流れが一般的です。改善しない場合に司法処分に至ることがあります。ただし運用は違反の内容や程度をふまえた監督署の判断によります。
- Q. 何年も検査していないことに気づきました。どうすればよいですか
- まず現在の状態を確認するため年次を実施し、次に全保有機械の棚卸しで期限を洗い出してください。年次は外注の順番待ちになるので、月例と作業開始前の運用は先に立て直せます。過去の分を遡って記録を作ることは避けてください。
- Q. 記録を遡って作成してもよいですか
- 避けてください。実施していない検査の記録を後から作ることは、記録全体の信頼性を壊します。実施していない期間はそのように扱い、これからの計画を示すほうが説明が通ります。
- Q. 使用停止の命令が出ることはありますか
- 危険な状態が確認された場合、機械の使用停止等の命令が出されることがあります。現場が止まるという意味では、罰金よりも事業への影響が大きくなる場面です。
- Q. 2026年1月から罰則は変わりましたか
- 罰則の条文自体は変わっていませんが、労働安全衛生法45条3項が新設され、特定自主検査は厚生労働大臣の定める基準に従って行うことが義務になりました。実施していても基準に従っていなければ問題になり得ます。
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本記事は一般的な情報の整理であり、法令への適合を保証するものではありません。個別の義務内容は所管行政庁または専門家にご確認ください。記事の内容は2026-09-30時点の情報です。